日本の国債はいつまで安泰か?

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ユーロ圏諸国のソヴリン危機がギリシャからスペインやイタリアといった大国にまで広がる動きが報道される中で、財政上はこれら諸国より深刻な問題を抱えている日本は、いまのところ危機とは無縁な状態にあると広く受け取られている。

その基本的な理由は、日本の国債が殆ど国民自身によって保有されており、しかも非常に低い金利水準を維持しているということにある。また日本はEU諸国に比べてまだまだ増税の余地を残しており、深刻な財政危機に陥る前に、立て直す可能性を持っているという事情もある。

そんなことから、日本は当面国債の調達に支障をきたすことはなく、ソヴリン危機とは無縁だという観測が広がっている。しかしそんなことがいつまで続くのか。現状のままで推移すれば、日本もまた遠からずソヴリン危機に陥らないとも限らない。見方によっては、10年と云ったスパンで、その危機がやってくるかもしれない。

日本の国債が順調に消化されていることの基本的なメカニズムは、日本の国内に潤沢な資金が存在し、その資金で国債を買おうという動機が非常に強いということだ。

国債の消化に充てられる資金とは、単純に言えば、国民の金融資産の合計である。その資産の規模が、国債の消化額を賄うに十分でなければ、ギリシャのように、他国からの資金に依存せねばならない状況に陥る。ところが日本の場合、国内資金による国債の保有割合は95パーセントに達する。

何故国内の金融資産が国債の購入に向けられてきたのか、これはまた別な問題だが、ここでもいままでの日本は国債の消化と云う点ではラッキーな事情が働いた。長引く不況体質から抜け出せない状況の中で、国内の余剰資金が投資に向けられず、国債の購入に向けられてきたのだ。つまり国内の国債購入意欲が異常に高いという事情が働いてきたわけなのだ。

次いでデフレによる金利の低下が国債の調達コストを下げてきたという事情がある。通常、国債の信用度が低くなり、保有リスクが高まると、国債の価格が下落し、金利が上昇するというメカニズムが働くものなのに、日本の国債に限っては、信用度を格下げされても金利が上昇することはなかった。これは日本経済のデフレ圧力が、国債の金利にも働いているからおこる現象だ。

このように、日本の国債が、表面的には安泰に見えるのは、いくつかのラッキーな要因が働いていることの結果だ。逆に言えば、これらの要因が働かなくなると、日本の国債もおかしくならないとは限らない。

まず、国債の消化を究極的なところで支えている国民の金融資産の動向だ。

家計が保有する金融資産は2011年3月末で1476兆円であった。これにたいして発行済みの国債の残高は680兆円、地方を含めた政府全体の公的債務残高は990兆円であった。この数字から類推できるように、日本は今のところ、家計の金融資産でかろうじて国債を消化できる状況にあるといえる。

しかし今後いつまでも、金融資産が潤沢にあるとは保証できない。人口の高齢化に伴って、金融資産は次第に食いつぶされる傾向が予想されるから、いつかは国債を国内資金だけでは消化できず、外国からの資金に依存する状況が出現する。その時点で、日本もEU諸国と同じような、ソヴリン危機の問題に直面せざるを得なくなるわけだ。

金融機関の国債購入意欲も、いつまでも高いままだとは限らない。金融機関の国債購入意欲に働く要因として、預貸ギャップ(預金マイナス貸出)があげられる。現在は経済の状況を反映してこのギャップが大きい状況が続いており、それが国債の購入意欲を高めている。当分は考えにくいかもしれないが、金融機関の資金が企業への貸し出しに向けられるようになると、当然のことながら、国債の調達資金はショートする。

デフレの傾向が修正されて、インフレ基調に転じることも、国債にとっては非常にマイナスの効果を及ぼす。一般金利の上昇が国債の金利上昇を引き起こし、国債の償還コストを押し上げる効果をもつからだ。

こうした事情を虚心坦懐に受け取れば、日本の国債はきわどいバランスの上で安定していることが良くわかる。このバランスが崩れると、意外に早く深刻な事態がやってくるかもしれない。専門家の中には、2020年までには、日本は外国資本に国債の消化を期待せざるを得ない状況に追い込まれると考えているものもいる。





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このページは、が2011年10月10日 19:28に書いたブログ記事です。

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