中国旅行から戻って久しぶりに日本のニュースをチェックしてみたところ、まず飛び込んできたのが、TPP参加問題を巡る野田総理大臣のAPECでの発言だった。
TPPへの参加表明のタイムリミットとされる今回のAPECにおいて、野田さんは、とりあえず最終的な意思決定は保留したうえで、参加交渉に加わると表明したらしいが、それに先立つオバマ大統領との会談において、「経済連携に関する基本方針に基づいて高いレベルでの経済連携を追及する」と伝えた。
この表明を米側は「すべての品目やサービスを貿易自由化の交渉テーブルに乗せる」ことを日本側が約束したと解釈し、その旨を米国内向けにコメントした。というのも、野田さんが言及した基本方針(菅さんの時期に作成)には、「センシティブ品目に配慮しつつ、すべての品目を自由化交渉対象とする」と書いてあるから、そう解釈するのは自然な流れだといえる。
これに対して、日本国内のTPP慎重派が早速かみついた。首相は国内向けのコメントでは「交渉参加に向けて関係国との協議に入る」とのみ述べて、「基本方針」には一切言及していなかったのに、何故米側にはそのように言ったのか、これが最大の問題になった。つまり野田さんは、国内向けと米国向けとで、相反したことを云っているのではないかとの批判が巻き起こったわけだ。
野田さんは、米側のコメントにあるようなことを云った覚えはないと否定しているが、米側もコメントを修正する必要はないといっている。どちらが本当なのか、曖昧なままだ。
最大の論点である農産物の自由化と医療保険制度の存続について、国会で追及されても野田さんは明確な言明をしない。「ボトムラインを示すのは手の内を見せること。勝ち取るべきものは勝ち取り、守るべきものは守る」と訳の分からぬことをいって、質問者を煙に巻こうとするばかりだ。
その様子はまさに、口先三寸で相手の追及をかわそうとするかのようだ。のらりくらりとした言い逃れは口先のサーカスといった体のものだ。野党の諸君はそんな野田さんを二枚舌といって非難している。
一国の宰相が国民に向かって率直でないというのは、やはり不幸なことだ。国民が宰相に期待しているのは確固とした政治信念に基づくリーダーシップであって、口先のサーカスなどではない。(写真は毎日.jpから)
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