プーチンのあせり:揺らぐ政治基盤とアメリカへのやつあたり

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12月4日の下院選挙を巡って、モスクワやサンクト・ぺテルブルグで民衆のデモが巻き起こったことについて、プーチンはそれをアメリカがたきつけた結果だと、強い口調で非難した。そして、12月10日の土曜日に、ロシアの80都市で予定されているデモについても、それはヒラリー・クリントンにそそのかされた連中が企んでいることだと決めつけて、徹底した弾圧をほのめかしている。

実際モスクワでは、5万人の警察官と2千人の特殊部隊が投入されて、デモに備えているといわれる。インターネットでデモ参加を呼び掛けている組織は、整然としたデモの方法や、万が一逮捕された時の身の処し方などについて、アドバイスしているくらいだ。

プーチンは、自分が置かれている状況をどう考えているのだろうか。つい最近までは60パーセント前後の支持率を誇っていたとおり、有権者の人気は高かったのだ。それが急に落ち始めたのは、次期の大統領選挙に出馬して、メドヴェージェフと交代すると言明して以降のことらしい。国民はこれに対して、プーチンの期待したような反応をしなかったわけだ。

プーチンはたしかに、民主化以降危機的状態に陥ったロシアの経済・社会を立て直して、ロシアを多少は住みよい国にしてくれた。国民はそのことでプーチンを評価した。だがプーチンへの評価はもう過去のことだ。これからのロシアは、プーチンではかじとりできない。

これからのロシアが求められているのは、民主的な政治であり、強い経済基盤である。だがプーチンにはそのどちらも期待できない。プーチンが代表しているのは腐敗したクレプトクラシー(Kleptocracy)であり、石油・ガスに依存した奇形的な経済基盤だ。もうそんなものに期待できない、国民はこう考えているからこそ、プーチンにノーと言っているのではないか。

そういう国民の中に強く生じている感情のようなものをプーチンは読み取れていないようだ。

彼は相変わらず強気だ。自分に反対する勢力がもしロシアの中に生まれたとしたら、それはアメリカの陰謀に踊らされているのだから、それを力で粉砕するのは正義にかなっている。プーチンが新しく立ち上げた政党「全ロシア民族戦線(Общероссийский народный фронт)」の演壇のうえからプーチンはそう叫んだ。「統一ロシア(Единая Россия)」は腐敗ぶりが国民に忌避されるようになってきているので、それにかわる新たな皮衣をプーチンは必要としたというわけだ。

ともあれ、プーチンが国民の人気を取り戻すためには、いまや二つの事が必要だ。ひとつは民主化と法治主義の徹底だ。ロシアには真の人権が確立されていない。政治は法律によってではなく、人間の恣意的な意思によって動いている。そんな国には外国からの投資が集まるわけもない。

ふたつ目は、石油・ガスに極端に依存した経済基盤を近代化することだ。いまのままでは、石油・ガスの価格が低下すればロシア経済は深刻なダメージを受けるようにビルトインされている。そのダメージが現実化する可能性は高い。そうなる前に経済システムを作りなおさねばならない。そのためには欧米などからの投資も必要となる。だが今のロシアは外国の投資家にとっては非常にリスクが高い。それを実現するにはロシアのシステムへの信頼を確立せねばならない。

こんなことがプーチンにできるだろうか。おそらくは無理だろう。それを一番強く感じているのはおそらくロシア国民そのものなのだろう。それ故プーチンの人気に陰りが見えているのだということを、プーチン自身が気づくべきなのであろう。(写真はECONOMISTから)

(参考)The cracks appear Vladimir Putin should clean up the Kremlin and modernise the economy--for Russia's sake and for his own:ECONOMIST





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このページは、が2011年12月 9日 19:42に書いたブログ記事です。

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