金正日死後、北朝鮮の新たな権力者として姿を現しつつある金正恩が、世界に向けて初めてメッセージを発した。自分自身の口からではなく、国防委員会の声明としてだ。発表の形式からして、金正恩が軍の庇護下にあることをうかがわせ、金正恩がまだ自立していないのではないかとの観測を強めているが、それにしても内容はお粗末の限りで、折角世界の政治舞台へデビューを飾ったにしては、能のないメッセージだった。
発表は北朝鮮国営テレビを通じて行われた。チマチョゴリに身を包んだ例の女性アナウンサーが、いつものとおり身体全体を震わせながら、国防委員会の声明を記した原稿を朗読する。「南朝鮮の傀儡を含む世界の愚かな政治家らに我々からいかなる変化も期待してはならないということを、自信をもって厳かに宣布する」と。
つまり、政治指導者が変ったからといって、北朝鮮の政策には聊かの変化もない、そのことを世界中の政治家は肝に銘じて置けということらしい。
また、韓国の李明博大統領を強く非難した。金正日大将軍の葬儀に参加したいという大勢の韓国人民の希望を踏みにじり、弔問を認めなかったことは絶対に許せない、それに脱北者たちが葬儀の当日に北朝鮮誹謗ビラを風船に乗せて飛ばしたのも許せない、よって「李明博逆賊一味は永遠に相手にしない」と述べた。
一国の指導者の死はある意味で、その国の外交方針を転換するための大きなチャンスとなりうるものだ。金正日のようにあらゆる意味で完璧な独裁者であった人間が死んだわけだから、北朝鮮はそれをきっかけにして、国際社会に生き残るための外交上のきっかけを得られるはずなのだ。
日米韓も北朝鮮が理性的な行動をとることを期待していた。
このメッセージは、そうした期待や可能性を一切ぶち壊すものだ。北朝鮮が本当にこのメッセージ通りに考えているなら、彼らに未来はない。
金正日は核兵器を開発することで、自分たち北朝鮮の特権階層が生き残れることの保証を求めよぅとした。人民が飢えて死ぬことよりも、自分たちが生き残る事だけを考えてきたのだ。しかし独裁者がどんなに巧妙に人民をだまし、自分の政治基盤を安定化しようとしても、それには限界がある。北朝鮮はその限界に、いまや迫りつつあるのだ。このままでは遠からず体制の崩壊がやってくるだろう。
そういう大事な時期に、自分を狭い穴の中にとじ込め、自分で自分の退路を断とうとする。能がないというより、自殺行為そのものではないか。
このメッセージは世界中の人々にそう感じさせる体のものだ。
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