いたずらをしてママに怒られたマックス少年が、夜ご飯抜きで部屋に閉じ込められている間に、冒険の旅に出発する。旅先でマックス少年は、様々な怪物たちと遭遇して、奇妙奇天烈な冒険をする、そして冒険の果てに、暖かい夜ご飯が待っているママのところに戻ってくる、これはまさしく、オデッセイの物語と同じ、壮大な冒険の物語だ。小さなマックスの雄大なオデッセイの旅。それがモーリス・センダック(Maurice Sendak)の代表作「怪獣たちのいるところ」が描く世界だ。
この絵本を、1970年代以降に子育てした世代は、子どもに読んで聞かせた記憶があるだろう。筆者もそんな心優しい父親の一人だった。だが息子たちにセンダックの絵本を読んでやるうちに、自分自身がそれらの絵本のとりこになってしまった。
モーリス・センダックは、子どものみならず大人をも夢中にさせる何かを持っていた。それは一言では表現できないが、人間へのあくなき探究心が、絵本という媒体を通じて現れたオーラのようなものだったのかもしれない。
センダックの絵本は、それまでの絵本の常識を覆すものだった。彼の絵本には、邪悪なものが沢山出てくるし、主人公にも邪悪な心をもったものがある。しかし、センダックの手にかかると、そうした邪悪さも、人間のもつ多くの側面の一つなんだということが、さりげなく示される。
世の中はきれいごとだけではない、邪悪さを含めてさまざまな事柄が渦巻く世界なんだ。センダックの絵本は、そんなメッセージからなっている。
絵がグロテスクだし、言葉も乱暴だから、子どもの教育には相応しくない、そういって、センダックは親たちの反発を受けることもあったがが、子どもたちからは圧倒的な支持を受けた。日本の子どもたちも、その例外ではなかったと思う。
モーリス・センダックは、20世紀の絵本作家としては、もっとも偉大な作家だったといってよいだろう。そのセンダックが、コネチカット州ダンベリーの自宅で死んだ。死因は脳卒中の合併症、83歳だった。
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