ドイツ経済が好調なわけ

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経済危機に苦しむヨーロッパ各国を尻目に、ドイツ経済は好調だ、と朝日の記事が伝えている(5月2日朝刊)。ダイムラー・ベンツでは、昨年、過去最高の210万台の売り上げを達成し、膨大な利益をあげたとして、従業員一人当たり4100ユーロの一時金を支給するほどだった。ダイムラーに限らず、他の自動車メーカーも、同じような好景気に沸いているそうだ。

記事は、この好景気の要因として、輸出の好調と並んで、ドイツが行ってきた構造改革をあげている。1990年の東西統一をきっかけに、ドイツは一時深刻な経済危機に陥った。統一のコストがその大きな要因だった。そこで、シュレーダー率いる社会民主党政権は、大胆な改革に踏み切った。その成果が、今になって実を結んでいるとの評価だ。

改革の内容は、一言でいえば、それまで目指していた福祉国家からの転換というものだった。失業手当などの給付を削って、労働者になるべく働く意欲を持たせる一方、非正規雇用を拡大して、企業に労働者の雇用コストを下げるインセンティヴを付与した。この結果、労働市場が弾力化するとともに、企業努力によって生産性も上がり、全体としてのドイツ経済の競争力が強化された。それが、今日のドイツ経済の強みに結びついている、というわけである。

たしかに、ヨーロッパという庭の中では、ドイツ経済の生産性は比較優位に立っているといってよい。それが、ドイツをヨーロッパという統一体の中での優等生にさせ、先進工業の分野を中心にして、高いシェアーを獲得させる原動力になっていることは否めない。

しかし、ドイツ経済を支えているのは、基本的には輸出である。ダイムラーなど自動車産業の好調も、輸出が支えている。では、なぜドイツは輸出の恩恵をかくも強く受けられるのか、そこのところを深く考えてみる必要がある。

ドイツの輸出が好調なのは、ユーロが割安になっていることの反射的な利益だといえる。つまりドイツは、ユーロ安の利益を集中的に受けているのである。

ユーロが安くなっているのは、ギリシャをはじめ他の国の危機を反映しているに過ぎない。ドイツは、こうした国と一つの経済統合体を結んでいるからこそ、膨大な経済的利益を享受できている。もしも、ドイツの通貨がマルクのままだったら、ドイツ経済の強みはマルク高をもたらし、ドイツは輸出の利益を享受できなくなる。しかし、ユーロがドイツの通貨である限りにおいて、ドイツは通貨安の恩恵を被ることができる。

メルケルはしかし、けっしてそんなことは認めない。ドイツ経済が堅調なのは、血のにじむような努力で構造改革を成し遂げたからだと強調する。ユーロ安の恩恵で経済が好調だと認めれば、ギリシャやほかの国に援助の手を差し伸べるのは当然だ、といわれるのを恐れているからだ。





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このページは、が2012年5月 2日 19:07に書いたブログ記事です。

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