七つの大罪はそれぞれ互いに響きあうものを持っているが、なかでも大食と邪淫は深いかかわりを持つと信じられていた。そのことは中世の諺「バッコスがいなければヴィーナスもかたなし」に示されている。ボスはそんな観念に基づいてこの絵を描いたのだと思われる。
左手の男たちの一団が大食のイメージを表している。酒樽に跨った男は太鼓腹をしており、いかにも大食漢といった風情だ。樽の周りに他の男たちがしがみつき、そのうちの一人は酒を勢いよく汲み出している。下の方には別の男が岸辺に向かって泳いでいるが、男の表情はミートパイを乗せた皿に隠されて良く見えない。岸辺に脱ぎ捨てた衣服が見えるのは、あるいはこの男のものかもしれない。
右手には、テントの中で男女が睦みあっている。男は盃を持って女に勧めているようだ、女が盃に向かって口を突き出しているように見えるのがそのことを示唆している。
この絵は酒を媒介にして、大食と邪淫を結び付けているわけだ。酒は一方では暴飲暴食に、他方では邪淫の陶酔につながると考えたのだろう。
なお、この絵はもともと「愚者の船」と一帯をなしていたとする説がある。だがそれにしては絵のサイズがかなり違っているので、辻褄のあわないところがある。一方、季節を描いた連作の一部とする説もある。それによればこの絵は、5月を表しているという。
(板に油彩、31×35cm、イエール大学付属美術館)
関連サイト:壺齋散人の美術批評
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