エジプトでイスラムの大統領誕生

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6月16-17日にかけて行われたエジプトの大統領選挙決選投票の結果が24日に発表され、ムスリム同胞団を基盤とする政党イスラム自由正義党のムハンマド・ムルシ氏が、軍部が推すアフマド・シャフィーク氏を僅差で破り、エジプトでは初めてのイスラム大統領となった。

しかし新大統領を待ち受けているのは、極めて厳しい政治状況だ。というのも、大統領選の結果発表を前にして、軍部が一連の動きを見せ、新大統領と対立する姿勢を露骨に出しているからだ。

軍部はまず、決選投票の前夜に議会を解散させた。最高憲法裁判所が「議会制度は不平等で違憲」と判断したことを根拠に行ったものだ。この結果、議会で多数派を占めていたイスラム同胞団の議員たちは、政治活動の最大の拠点を失うことになった。

軍部は引き続き、暫定憲法の修正を発表した。新しい議会が招集されるまで軍部が立法権を持つこと、憲法起草作業について拒否権を持つこと、軍事予算や人事面のことについて外部の干渉を排除する、といった内容だった。つまり今後の国のあり方をめぐる憲法制定に際して、軍部が主導権を持ったのである。

これに対して、大統領には組閣権限と法律への拒否権があるが、議会が存在しない状況では、大統領は議会内の与党の支持を得られないまま、直接軍部と向き合わざるをえないこととなる。その軍部は、大統領の権限を骨抜きにして、自分たちの政治的な野心を貫徹させようとしているわけだ。

こういうわけで、新大統領の周囲には、様々な課題が持ち上がっているが、大きな課題は二つになるだろう。一つは軍部との関係、ひとつはイスラム原理主義と世俗派はじめそれ以外のグループとの対立だ。

軍部との関係では、立法権を持つ軍部の独走をどこまでコントロールできるかが課題だ。コントロールに失敗すると、大統領の権限は骨抜きになり、軍事独裁の可能性まで出てくる恐れがある。

一方、国内のグループ間の対立をどう調整するかも難題だ。支持母体であるムスリム同胞団はイスラム原理主義の適用を求め、反イスラエルの姿勢も明確にしろと迫るだろう。一方世俗派の人々は、イスラム原理主義の横行によって、権利が制約されるのを心配しているほか、コプト派などの少数グループは、自分たちの信仰が抑圧されるのを恐れている。

ムバラクが共通の敵であった時にはスクラムを組んでいた勢力も、ムバラクが倒れたあとは求心力を失って、ばらばらになっていった。その間隙をついた形で、イスラム勢力と軍部とが直接対立する構図が浮かび上がってきたわけだ。

エジプトの本物の再生には、道いまだ遠しといったところだろう。(写真はムルシ支持者たち:ロイターから)





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このページは、が2012年6月25日 19:18に書いたブログ記事です。

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