40歳定年で流動的な日本を:野田内閣国家戦略会議

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野田総理大臣が議長をつとめる国家戦略会議のフロンティア分科会なるものが、国の長期ビジョンに関する報告書をまとめたが、そのなかにある「40歳定年制」の提言を巡って、ちょっとした騒ぎになっているのだそうだ。

これは「皆が75歳まで働くための」施策だと断ったうえで、これまでの考え方の延長で定年年齢を引き上げるのでは、一つの企業内に人材を固定し、企業の活性が失われることで、企業の競争力も失われ、したがって雇用も失われていく、それ故今後は、雇用を流動的なものにして企業の活性を保つ必要があり、人生で2~3回程度転職することが普通になる社会を目指す必要がある。その決め手が定年を40歳に引き下げることだというのだ。

この提言の意図しているところは、終身雇用制をやめて、雇用を流動化するとともに、皆が75歳まで働き続けられるような条件を構築することで、社会福祉への支出も抑えたいということだろう。

もっと噛み砕いて言えば、次のようになるだろう。大学を出て企業に勤めた人は、一生その企業の厄介になるといった考えは捨てて、どんな企業でも勤まるように、若い頃から自己研さんをしていく必要がある。一方企業の方では、40歳までは管理職への登用を餌にして従業員から日本的な忠誠を引き出し、40歳になった時点で管理職になれなかった人は、高給のフルタイムから降りてもらうか他に転職するなどにより、後進に道を譲らせることができる。従業員にとっては、企業に残ることはフルタイムから非正規へと転落することを意味し、運よく他企業に移ることができた場合でも、「ランクを下げた転身」ということになりかねない。

こんな訳だから、いまでも雇用の劣化に苦しみ、非正規の待遇にあえいでいる人たちから、怨嗟ともいえる声が巻き起こったというわけである。R25によれば、ネットの掲示板には、
「もー絶対子どもなんか作れないな」
「そのあとどうすんだよってのは一切考えてない」
「これやったら失業率20パーくらい 楽に超えそうなんだが」
といったコメントが殺到、また
「人材の固定化が問題だというなら、国会議員の多選も禁止しなければならない」
「何が酷いかってこの提言が政府主催の公的な会議ってところだ」
といった意見もあったそうだ。

野田内閣はいったいどこから、こんなアイデアを仕入れて来たのか。冷泉彰彦氏は次のような穿った見方をしている。

<いかにも現時点での財界幹部の考えそうなことです。旧態依然としたマネジメントを続ける中で「言うことを聞いてくれる」正社員集団は維持したい、その一方で「40過ぎの高給で使えなくなった人材は吐き出したい」というホンネがミエミエだからです。これでは、結果的にグローバルな労働市場から来た人間は実力を発揮できないし、最新の技術や知識を持った経営のプロが縦横に活躍することもできないでしょう>(ニューズウィークへの寄稿)

筆者も同じような見方だ。噴飯ものなのは、野田内閣がこれを、2050年を展望した政策だと言っていることだ。長期的な展望を云々するのであれば、目指すべき国の形を徹底的に議論したうえで、国民の共通理解を求め、それを踏まえてしっかりとした土台を作り直さねばならない。

ところがこの報告には、冷泉氏もいうように、財界の目先の利害ばかりが露骨に反映されているばかりだ。しかもそのトーンは非常に後ろ向きで展望がない。(冷泉氏によれば、そのうえ、書かれている文章が支離滅裂で、何を言いたいのかちんぷんかんぷんなのだそうだ) これではネット世論でなくとも、反発したくなろうというものだ。





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このページは、が2012年7月12日 19:32に書いたブログ記事です。

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