山口県知事選の意味:自公民野合候補の辛勝

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7月29日に実施された山口県知事選で、自民・公明が推薦する山本氏が、脱原発を旗印にした飯田氏を破って当選した。25万票対18万秒の差だから、それなりの数字を獲得しての勝利だった。しかし、自民・公明両党にとって手ばなしで喜べないのは、保守王国とされた山口県で、民主党が候補者を立てないという状況の下で、脱原発を掲げた飯田氏に激しい追い上げを食らったということだ。仮に民主党が候補をたてていたら、保守層が分裂して飯田氏が漁夫の利を得たかもしれない、それを考えると、手放しで喜んではいられないということだろう。

飯田氏は大阪維新の会と深いつながりを持っていることで知られるが、そんなに知名度があるわけではなく、今回は維新の会のバックアップを得られない中で、無所属で立候補した。そんな飯田市がこれまで善戦したのは、やはり原発や増税などをめぐっての自公民既成政党の対応に、山口県のような保守的な地域の有権者も、愛想を尽かしていることを物語っているとみて良い。実際山口氏も、自公民の表向きの政策とは異なって、原発問題でも、いま問題になっているオスプレイ問題でも、正面から取り上げることを避けていた。もし正面から政府と同じようなことを公言していたら、勝利はなかっただろうと思われる。

今回山本氏が勝利したことの最大の原因は、民主党が候補者を立てなかったことだ。メディアの論調には、民主党が候補者を立てられなかったのは、政権政党として情けないなどといったものもあるが、民主党は候補者を立てられなかったのではなく、あえて立てなかったと見たほうが正確だろう。というのも、民主党内部からは立候補に強い意欲を示していた者がいたとつたえられているように、少なくとも候補者に事欠く事態はなかったからだ。それが実現しなかったのは、保守票が分裂して、飯田氏が漁夫の利を得ることに、野田総理自身が強い不安感を示したからである。

野田総理は、今の政局を踏まえて、もし自公と民主党が候補者をたてて争ったら、第三勢力で脱原発を唱える飯田氏に勝利されるかもしれないという恐怖を覚えたのだろうと思う。もし飯田氏が勝利するようなことがあったら、民主党政権としては計り知れない打撃となる。そうさせないためには、自らの候補擁立を見送って、保守票を一本化させ、飯田氏と言う変な人間に知事のポストを渡さないことが大事だ、そう考えたとしても不思議ではない。

その結果なにが起こったか。表向きは自民・公明の共同候補対飯田氏の対決と言うことだが、本当はそうではない。山本氏は、自民・公明両党の顕示的な推薦のほかに、民主党の暗黙の推薦も受けていたと考えてよい。つまり山本氏は自公民の野合の上に成り立っていた候補だったわけである。

その既成政党の野合候補と脱原発を掲げる第三極の対立、それが今回の選挙の本質を為していた、そう考えてよい。言い換えれば、原発推進・消費増税・国民不在の外交、そういったものに対して、飯田氏がどれほど反対票を集められるか、それが焦点になった選挙といってもよい。

その結果は山本氏が勝ったわけだが、民主党は勿論、山本氏を担いだ自民・公明にもすっきりした勝利感はない。先述したように、山本氏は原発や増税問題を封印して、ちゃらんぽらんな選挙運動に終始していたわけだし、有権者の関心も、投票率が50パーセントに届かなかったなど、いま一つ盛り上がらなかった。これが他の県なら、それでは収まらなかったかも知れない。それ故、自公民の既成政党は、次の総選挙で自分らにどのような運命が待ち受けているのか、不安でしかたがないというところなのだろう。

その不安を顕在化させない知恵が一つだけある。今回の候補擁立のスタイルを、次回の国政選挙でも最大限活用することだ。つまり、自公が立候補する選挙区では民主党は立候補を見送り、逆に民主党が立候補するところでは自公が見送る。そうすることで、第三極からの挑戦に対して、自公民の既成勢力が野合候補を立てて撃退する。そんなシナリオがもし実現すれば、自公民は政党として生き残れるかもしれない。

しかし、そんなこざかしい選挙戦略に飛びつくようでは、自公民には明るい未来はないだろう。一時的には勝てるかもしれないが、長い目で見れば、それは政党としての自殺行為といえるからだ。そんなことを有権者が許すはずもない。そんなことをするくらいなら、自公民が野合するのではなく、一つの政党にまとまった方が、はるかにわかりやすい。

今の民主党は、2009年に政権を取ったときの民主党とは全く違う。今の民主党は、自民党野田派といってよいほど、自民党との政策的な相違がなくなっている。そうだとしたら、むしろ自民党と大同団結して、第三極に対抗したほうが、長い目でみて利口だろう。また国民にとっても、その方がよほどわかりやすい。





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このページは、が2012年7月30日 19:12に書いたブログ記事です。

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