英詩のリズム


エドガー・ポーの詩「ヴァレンタイン」A Valentine(壺齋散人訳)

  彼女のためにこの詩は書かれた 
  レダのように賢い彼女の目なら
  ここに自分の名前を探しあてるだろう
  凡庸な読者の目には隠されたところから

エドガー・ポーの詩「勝利の蛆虫」The Conqueror Worm(壺齋散人訳)

  見よ わびしい末世の
  祭りの夜に
  羽を畳んだ天使たちの一群が
  ヴェールの陰で咽びながら
  とある劇場に腰掛けて
  希望と恐怖の一幕を見ている
  オーケストラがとぎれとぎれに
  天上の音楽を奏でている

エドガー・ポーの詩「ユーラリー」Eulalie(壺齋散人訳)

  わたしがひとりで
  住んでいたのは苦悩の世界
  心の中はよどんだ流れのようだった
  そこへやさしいユーラリーが現れて花嫁になってくれた
  金髪で笑顔の美しいユーラリーが現れて花嫁になってくれた

エドガー・ポーの詩「レノア」Lenore(壺齋散人訳)

  ああ 黄金の鉢は壊れ 魂は永遠に飛び去った
  鐘を鳴らせ 気高い魂が三途の川を渡るのだ
  そしてギデヴィアよ いまこそ泣け さもなくば二度と泣くな
  見よ かなたの棺の中に 愛するレノアは横たわる
  さあ哀悼の言葉を述べよ 葬送の歌を歌え
  かくも年若くして死んでいった乙女への賛歌を
  かくも年若くして死にさいなまれたものへの挽歌を

エドガー・ポーの詩「花嫁のバラード」Bridal Ballad(壺齋散人訳)

  手には指輪
  額には花飾り
  ドレスも宝石も
  みな思いのまま
  わたしは幸せなの

エドガー・ポーの詩「ザンテの島」To Zante(壺齋散人訳)

  美しい島よ お前の名は花の中の
  花ともいうべきものからとられた
  何と輝かしい時間の何と多くの記憶が
  お前とともに蘇ってくることか!

エドガー・ポーの詩「F-s.S.O-d へ」(壺齋散人訳)

  愛されたいのなら
  いま歩んでいる道からそれてはならない
  いまのままでいなければならない
  それ以外のものであってはならない
  そうするだけで あなたのやさしさ
  あなたの優美さ あなたの美しさが
  絶えざる賞賛の的となり
  愛されることが当然となりましょう

エドガー・ポーの詩「讃歌」Hymn(壺齋散人訳)

  朝にも 真昼にも そして黄昏時にも
  マリア様 わたしの讃歌をお聞きください
  喜びのときも 苦悩のときも
  聖母様 わたしをお導きください

エドガー・ポーの詩「謎」An Enigma(壺齋散人訳)

  ソロモン・ドン・ドゥンスがいうとおり
  このソネットには内容がない
  一読しただけでその無意味さが
  誰にもわかろうというもの
  まるでナポリの髪型のようだ
  だがまるで無意味かというとそうでもない
  たとえばペトラルカ風のソネットなどとは
  ちょっぴり風味が異なっている
  たしかにソロモンのいうとおり
  ことば自体は泡のようにはかなくて
  いまにも消えてなくなりそうだが
  ただひとつ確かなものがある
  それは堅固で不透明で永遠だ
  この中に隠されている名前がそうなのだ

エドガー・ポーの詩「天に召されたひとへ」To One in Paradise(壺齋散人訳)

  愛する人 あなたはわたしが
  心から求めたひとだった
  あなたは海のオアシスだった
  そこには泉があふれ宮殿がそびえ
  花咲き 果実がたわわに実る
  それらすべてがわたしのものだった

エドガー・ポーの詩「眠れるひと」THE SLEEPER(壺齋散人訳)

  六月のある真夜中
  神秘の月を見上げれば
  その金色の縁からは
  眠たげなかすみが滲み出し
  露がしたたり落ちるように
  静かな山の頂をかすめ
  ゆるやかなリズムにのって
  深い谷間へと落ちていく
  墓にはローズマリーがうなだれ
  水辺ではユリが首を垂れ
  深い霧に包まれながら
  廃墟が静かに横たわる
  そして湖は忘却の川のように
  ひと時の眠りにまどろみ
  動く気配も見せない中
  あらゆるものが眠りにつく
  そして開け放った窓の内側では
  アイリーンが永久の眠りについている

エドガー・ポーの詩「ヘレンへ」To Helen(壺齋散人訳)

  ヘレン あなたの美しさは
  古代のニケアの帆船のようだ
  馥郁たる海をわたって
  旅に倦んだ放浪者を
  祖国の浜に運ぶという

エドガー・ポーの詩「~へ」TO ----(壺齋散人訳)

  わたしのこの世での運命が
  惨めなものであったとしても
  はぐくんできた愛が一瞬のうちに
  忘れられたとしてもかまわない
  だれよりも見捨てられた存在だとしても
  わたしは一向に嘆きはしない
  わたしがたまらないのは憐れまれること
  わたしはこの世にとっての異邦人なのだ

エドガー・ポーの詩「科学へ」To Science(壺齋散人訳)

  科学よ お前は古い時代の生んだ娘
  うの目鷹の目であらゆるものを作りかえてしまう
  詩人の心がお前などにわかってたまるものか
  ハゲタカめ お前の翼は偽者なのだ

エドガー・ポーの詩「ロマンス」Romance(壺齋散人訳)

  詩の言葉 それは心楽しく歌うもの
  翼を畳んで 夢見心地で
  木々の青葉が風に揺れて
  湖の淵に沈みこむように

エドガー・ポー Edgar Allan Poe の詩「アローン」Alone(壺齋散人訳)

  子どもの頃からわたしは ひととは
  違ったようにふるまい ひととは
  違ったものを見て ひととは
  ことなる泉から汲み取った
  ひととは異なるものに悲しみを
  感じ取り ひととは異なるものに
  喜びを感じた
  わたしが愛したのは ひとりでいることだった

エドガー・ポー Edgar Allan Poe の詩「ソング」Song(壺齋散人訳)

  ぼくは花嫁姿の君をみた
  君の頬は恥じらいで赤く染まる
  君の周りには幸福が溢れ
  前途には愛が輝いてるというのに

エドガー・ポーの詩「大鴉」The Raven(壺齋散人訳)

  あるわびしい夜更け時 わたしはひそかに瞑想していた
  忘却の彼方へと去っていった くさぐさのことどもを
  かくてうつらうつらと眠りかけるや 突然音が聞こえてきた
  なにかを叩いているような音 我が部屋のドアを叩く音
  いったい何者なのだろう 我が部屋のドアを叩くのは
  それだけで 後はなにも起こらなかった

ダンテ・ガブリエル・ロゼッティのソネット集「命の家」から「希望」The One Hope(壺齋散人訳)

  満たされぬ欲望と癒されぬ悔恨を抱いたまま
  いざ死にゆくというときになって
  忘れる事の出来ない痛みを癒してくれ
  忘れられないことを忘れさせてくれるものは何だろう

ダンテ・ガブリエル・ロゼッティのソネット集「命の家」から「上書き」A Superscription(壺齋散人訳)

  我が顔を見よ 我が名は「だったかもしれぬ」
  または「二度とない」、あるいは「遅すぎた」とも「さらば」ともいう
  海辺に横たわる汝の足元には打ち上げられた貝殻がある
  わしはそれをとって汝の耳に押し当てる

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