詩人の魂


ロベール・デスノスの詩集「Contrée (1944)」から「墓碑銘(L'Épitaphe)」(壺齋散人訳)

  この時代に生きた私はもう100年も前に死んでいたのだ
  それは零落してではなく追い詰められてのことだった
  だがすべての貴族たちが囚われの身であったときに
  私は奴隷たちの中にあって自由であることができた

ロベール・デスノスの詩集「Contrée (1944)」から「声(La Voix)」(壺齋散人訳)

  声 ずっと遠くから聞こえてくる声
  もう鼓膜を震わすこともないけど
  それでも太鼓の音のようにぼやけながら
  はっきり聞こえてくることもあるよ

ロベール・デスノスの詩集「Contrée (1944)」から「夏の夜(La Nuit d'été)」(壺齋散人訳)

  はびこったバラの枝に君のドレスが引っ掛かって
  破れた布の切れはしが朝靄で濡れている
  君が歩いていく周りでは リラやタイムの香りが
  別世界の花の香りと溶け合っている

ロベール・デスノスの詩集「Contrée (1944)」から「川(La Rivière)」(壺齋散人訳)

  こっちの岸から向こう岸へ僕は川を渡った
  しぶきを避けて岩伝いに飛び跳ねながら
  川の流れにうつった岩の影は
  泡で青くなった水に溶けこんでいた

ロベール・デスノスの詩集「Contrée (1944)」から「風景(Le Paysage)」(壺齋散人訳)

  かつて夢見ていた愛は今の愛とは違っていた
  そこにはリラやバラの花束が出てきて
  森中をかぐわしい匂いで包み
  まっすぐな小経の先には炎が光っていた

ロベール・デスノスの詩集「Contrée (1944)」から「滝(La Cascade)」(壺齋散人訳)

  この空と岩を貫いたのはどんな矢だ?
  孔雀の羽のように震えながら広がっていく
  あるいは夜中にねぐらを目指す彗星のように
  柄と矢先からは霧が吹いている

ロベール・デスノスの詩集「Etat de Veille(1943)」から「明日(Demain)」(壺齋散人訳)

  百歳になっても僕には君を待つ気力がある 
  明日に希望を予感しながら
  体のあちこちに捻挫の跡があるけれど
  新たな夜明け 新鮮な夕べと いうことができる

ロベール・デスノスの詩集「Etat de Veille(1943)」から「今日 僕はあいつと一緒に散歩したんだ(Aujourd'hui je me suis promené...)」(壺齋散人訳)

  今日 僕はあいつと一緒に散歩したんだ
  たとえあいつが死んでたとしても
  僕はあいつと散歩したんだ

ロベール・デスノスの詩集「Etat de Veille(1943)」から「夢(Rêves)」(壺齋散人訳)

  枕に頭を乗せて
  この枕で寝るんだ
  そして夢を見るんだ
  面白いことや未来のことを

ロベール・デスノスの1942年の詩集"運命(Fortune)"から「葉っぱ(Il était une feuille)」(壺齋散人訳)

  葉っぱには模様がついていた
  命の模様
  チャンスの模様
  心の模様

ロベール・デスノスの詩集"Le Livre secret pour Youki"から「夜の光に(Lumière de mes nuits Youki)」(壺齋散人訳)

  君は覚えているかい?
  君が僕の家の扉越しにやってきた夜のことを
  君は僕の部屋の影の中に突然現れて
  僕のベッドの中に大きな鳥のように滑り込んだ
  まるで海や草原や森を駆け回るのに疲れたみたいに

ロベール・デスノスの詩集 Les Ténèbres から「ほかならぬ君(Jamais d'autre que toi)」(壺齋散人訳)

  星々でもなく孤独でもなく
  夜のしじまに倒された木の枝でもなく
  ほかならぬ君こそが僕と同じ道を歩む
  そして君が遠ざかりゆくほど君の影が大きくなるのを僕は感じる

エズラ・パウンドの詩集「ペルソナ」から「性交」Coitus(壺齋散人訳)

  クロッカスのような金色の男根が
  春の風を浴びて屹立している
  ここには死んだ神は縁がない
  祝祭の行進があるのみだ
  ここはジュリオ・ロマーノの描いた世界だ
  月の女神が君臨する世界だ

ロベール・デスノスの詩集 Les Ténèbres から「漆黒の命(Vie d'ébène)」(壺齋散人訳)

  恐ろしい静寂がこの日の徴となるだろう
  静寂を破るのは街灯の影と火災警報だけだろう
  あらゆるものがみな一様に沈黙するだろう
  乳飲み子でさえ死に絶え
  タグボートも機関車も風も
  静かにすべり行くだけだろう

ロベール・デスノスの詩集「Les ténèbres(1927)」から「昔々(Dans bien longtemps)」(壺齋散人訳)

  昔々 葉っぱの城を通りがかった
  葉っぱは苔にまみれ黄ばんでいた
  遠くの海では フジツボが岩にへばりつき
  その場所に君の面影もへばりついていた
  透明な面影が
  あれから何もかもが僕のコメカミ 僕の瞳と同じ速度で年をとった
  こんないいかたは月並みかい?
  でも僕にとっては洒落た言い回しなのさ
  年をとらないのは君だけだ

ロベール・デスノスの詩集「Les ténèbres(1927)」から「樫の木の芯(Avec le cœur du chêne)」(壺齋散人訳)

  この木から切り出した材木で 樫の木の芯で
  カバノキの皮で どれくらいの空を どれくらいの海を
  またイザベルの足にはどれくらいのスリッパを 作ってやれるかな

ロベール・デスノスの詩集「Les ténèbres(1927)」から「空の歌(Chant du Ciel)」
(壺齋散人訳)

  アルプスの花が貝殻に言った:輝いてるね
  貝殻が海に言った:歌ってるね
  海が船に言った:震えてるね
  船が火に言った:燃えているね
  火が僕に言った:君の瞳のほうがよく燃えてる
  船が僕に言った:あの子をみるときの君の心のほうがもっと震えてる
  海が僕に言った:あの子を呼んでいる君のほうがうまく歌ってる
  貝殻が僕に言った:君の夢の中で揺らめいてるリンのほうがもっと輝いてる
  アルプスの花が僕に言った:あの子は可愛いね
  僕は答えた:そうだよ、そうだよ、あの子は可愛いんだ

ロベール・デスノスの詩集「闇」から「柳の木の下で(Sous les saules)」(壺齋散人訳)

  燃え盛る駕籠の中のへんてこな鳥
  僕は鋼鉄の森の木こりさ
  ここにはテンもカワウソもいない
  へんてこな鳥が翼を広げて輝いてるんだ

ロベール・デスノスの詩集「Les ténèbres(1927)」から「犯罪的な金曜日(Le Vendredi du crime)」(壺齋散人訳)

  すさまじい欲望が眠れる女をとらえる
  貴重な宝石は王の宝石箱の中で眠ったままだ
  けだるそうな砂利が道端ではねても
  夜に目覚めているものの足音は聞こえない
  聞こえるのは滝の音だけだ

ロベール・デスノスの詩集「Les ténèbres(1927)」から「ロベール・デスノスの声(La Voix de Robert Desnos)」(壺齋散人訳)

  花のようで 風のようで
  水の流れ 移ろう影
  夕暮れ時の微笑み
  あらゆる美や悲しみに似たもの
  それは真夜中のトルソー
  鐘楼やポプラの木よりも高く歩む

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