詩人の魂


ロベール・デスノスの詩集「A la Misterieuse(1926)」から「宵闇にまぎれて(À la faveur de la nuit)」(壺齋散人訳)

  宵闇にまぎれて君の影に滑り込もう
  君の足音を追いかけよう 
  窓に映っている影が君だ ほかの誰でもない 君だ
  その窓を開けるな カーテンの背後で君が動いているから
  目を閉じろ
  君の目を僕の唇で閉じてあげよう
  窓が開いて 風が炎を奇妙に揺らし
  僕は旗に包まれる
  窓は開いたけれど 君はいない
  わかっているよ

ロベール・デスノスの詩集「A la Misterieuse(1926)」から「死にゆく人の手のように(Comme une main à l'instant de la mort)」(壺齋散人訳)

  遭難して死に行く人の手が
  沈みゆく日の光のような軌跡を描く
  そのように君のまなざしもあらゆる方角に向かって飛ぶ

ロベール・デスノスの詩集「A la Misterieuse(1926)」から「君は知ってるだろう?(Si tu savais)」(壺齋散人訳)

  僕から離れるや 星や神話の飾り物のように
  僕から離れるや 君は無意識のまま存在する
  僕から離れるや 君を絶え間なく思う僕のゆえに君は沈黙がちとなり
  僕から離れるや 僕の愛すべき蜃気楼や永遠の夢を君は知りえない
  知っていてほしいのに

ロベール・デスノスの詩集「A la Misterieuse(1926)」から「愛の辛さ(Ô douleur de l'amour !)」(壺齋散人訳)

  愛することの辛さよ!
  僕にはお前が必要だ お前は愛しい存在なんだ
  僕の目は仮想の涙を流しながら閉じられ
  僕の手はわけもなく震えながら伸ばされる
  今宵僕が見た夢は途方もない風景 
  そして死の見地からしても 生の見地からしても
  愛の見地からしても 危険な冒険だった

ロベール・デスノスの詩集「茹でられた言葉(Langage cuit)」から「アルシュの鳩(La Colombe de l'arche)」(壺齋散人訳)

  花嫁の父親なんて
  くそ食らえ

ロベール・デスノスの詩集「茹でられた言葉(Langage cuit)」から「モカシン(Au mocassin le verbe)」(壺齋散人訳)

  君は僕の代りにおとなしく死んでくれたね
  僕もいつか君の代りに死んであげるよ

ロベール・デスノスの詩集「Langage cuit, 1923」から「夜に吹く風(Vent nocturne)」(壺齋散人訳)

  大海原に消えていくはかないものたち
  死者たちは射手を撃ちながら死んでゆき
  輪になってロンドを踊った
  神々しい神々 ちっぽけな人間たち!
  僕は五本の指でこの出来損ないの脳天を
  引き裂く
    なんという苦悩
  女たちの脳天は豊かな毛で覆われている
    はるかな空
    たしかな地面
  はるかな地面があってもいいのに

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筆者がロベール・デスノス(Robert Desnos)のことを知ったのは、イリア・エレンブルグ(Илья Эренбург)の回想録を通じてだった。1960年に書き書きはじめられたこの回想録は「人々、歳月、生活(Люди、Годы、Жизни)」と題されてノーヴィ・ミール誌上に発表され、日本では木村浩の訳が「我が回想」という題で出版されたが、それに先立ち小笠原豊樹が「芸術家の運命」という題名で抄訳していた。

ピエール・ド・ロンサールの詩から「墓碑銘」Pour son tombeau(壺齋散人訳)

  幼き頃より奔放なりしロンサールここに眠る
  ヘリコン山よりミューズをフランスにお誘いし
  アポロの矢を放ちリュートの調べを奏でた男
  されどかのミューズも死神の催促にはかなわず
  ロンサールはむごくも墓に葬られることとなった
  彼の魂は神に 彼の体は大地に返すこととしたい

ピエール・ド・ロンサールの詩「死のソネット」Je n'ay plus que les os(壺齋散人訳)

  わたしはもう骨ばかりの骸骨の標本にすぎない
  肉は削げ落ち 神経も筋肉も瞳もついていない
  無慈悲な死神がわたしに取り付いたのだ
  もはや慄かずに自分自身を見ることができぬ

ピエール・ド・ロンサールの詩から「エレーヌへのソネット:キスして」(壺齋散人訳)

  キスして ほおずりして 抱きしめて
  息を吹きかけてわたしを暖めて欲しい
  何度も何度も限りなくキスして欲しい
  愛には限度もきまりもないのですから

ピエール・ド・ロンサールの詩「エレーヌへのソネット第49番」(壺齋散人訳)

  あなたが愛の神に導かれて広間に降り立ち
  美しい愛のバレーを巧みに踊ったとき
  あなたの瞳の光があまりにも明るくて
  あなたの周りは夜が昼に変わったほど
 

ピエール・ド・ロンサールの詩集から「エレーヌへのソネット第43番」(壺齋散人訳)

  老いたあなたが夕べの暖炉のともしびの影で
  身をかがめつつ糸繰りをしている折など
  わたしの詩を読めばきっと驚きの声をあげるでしょう
  ロンサールはわたしの青春を歌ってくれたのだと

ピエール・ド・ロンサールの詩集から「エレーヌへのソネット第19番」(壺齋散人訳)

  いくたびも睦みあい いくたびも仲たがいし
  いくたびもいがみあい いくたびも仲直りする
  いくたびも愛を罵り いくたびも愛を讃え
  いくたびも遠ざけあい いくたびも求めあう

ピエール・ド・ロンサールの詩集から「マリーへのソネット第50番」(壺齋散人訳)

  5月のバラが枝の先に咲き広がり
  みずみずしい美しさを誇るとき
  暁に昇る太陽もその美しさには
  ねたみを覚えずにはいられない

ピエール・ド・ロンサールの詩集から「マリーへのソネット第48番」(壺齋散人訳)

  かわいいナイチンゲールよ お前はひとりで
  柳の木の枝から枝へと気ままに渡り
  わたしの真似をして高らかに歌う
  そのわたしが歌うのは愛する人のこと

ピエール・ド・ロンサールの詩集から「マリーへのソネット第35番」(壺齋散人訳)

  あなたに花束を持ってきました
  わたしが自分の手で編んだものです
  いまのうちに摘まなければ
  明日には萎れてしまうと思ったのです

ピエール・ド・ロンサールの詩集から「マリーへのソネット第23番」(壺齋散人訳)

  ミニョン お寝坊さん 起きなさい
  ひばりが空でにぎやかにさえずり
  ナイチンゲールもサンザシの枝で
  楽しそうに歌ってますよ

ピエール・ド・ロンサール「カサンドラへのソネット」第57番「空よ 風よ」Ciel, air et vents, plains et monts découverts(壺齋散人訳)

  空よ 風よ 野原よ 山々よ
  ブドウ畑よ 緑の森よ
  蛇行する川よ せせらぐ泉よ
  雑木林よ すずしき葉陰よ

ピエール・ド・ロンサール「カサンドラへのソネット」第51番「森の精ドリアード」Dedans des Prez je vis une Dryade(壺齋散人訳)

  牧場に見えるのは森の精ドリアード
  花に囲まれてくつろぐ姿が美しい
  色鮮やかな帽子のかげには
  緑なす乱れ髪が揺れている

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