詩人の魂


ピエール・ド・ロンサール「カサンドラへのソネット」第29番「千のなでしこ」Si mille oeillets(壺齋散人訳)

  千のなでしこ 千のユリを抱きしめよう
  両腕をしっかりとからませながら
  蔓のツルが木の枝を
  抱きしめるよりもっと強く

ロンサールはフランス文学の伝統にソネットを付け加えた詩人である。ロンサールとその一派とされるプレイアード派の詩人たちは、古臭い定型詩を否定して自由なスタイルの詩を重んじたが、唯一ソネットについては尊重した。

ロンサールのオードから「我が青春は過ぎ去った」Ma douce jouvence est passée(壺齋散人訳)

  我が青春は過ぎ去ってしまった
  みなぎっていた力は今はなく
  歯は黒ずみ 頭は白く
  神経は擦り切れ 体は冷え切り
  血管のなかには赤い血のかわりに
  茶色い液体が流れている

ロンサールのオードから「緑なすサンザシ」Bel aubepin verdissant(壺齋散人訳)

  緑なすサンザシが
  花盛り
  美しい岸辺に沿って
  野葡萄のつるに
  そこらぢゅう
  絡まれながら

ロンサールのロンドから「ツバメ」Odelette à l'Arondelle(壺齋散人訳)

  だまれ おしゃべりツバメめ
  でないとお前の羽根をむしるぞ
  でなければ包丁で
  お前の舌をちょん切るぞ
  朝っぱらからしゃべり続け
  おかげで俺は大迷惑だ

ロンサールのオードから「おてんばな子馬」Odelette à une jeune maîtresse(壺齋散人訳)

  まるでおてんばな子馬のように
  遠くからぼくを見つめるくせに
  ぼくのほうから近づいていくと
  逃げてしまうのは何故なんだい?

ロンサールのオードから「青春」Quand je suis vingt ou trente mois(壺齋散人訳)

  二・三十箇月もの間
  ヴァンドモアに帰ることなく
  取り留めのない思いを回らし
  悔恨と不安にさいなまれ
  岩や木や洞窟や波に
  切ない気持をぶつけるばかり

ロンサールのオードから「ベルリの泉」Ô Fontaine Bellerie(壺齋散人訳)

  ベルリの泉
  ベルリの泉よ
  ニンフたちの美しい泉よ
  お前の水の中に
  サチュロスから逃れてきた
  ニンフたちをかくまっておやり
  サチュロスはニンフを追って
  お前の流れの渕までやってくる

ロンサールのオードから「ミニョン」À Sa Maistresse(壺齋散人訳)

  ミニョン 一緒に見に行こう
  今朝の日の光でぽっかりと
  すみれ色に開いたバラの花が
  この夕暮になってもまだ
  君のドレスと同じような
  鮮やかな色を保っているかを

ピエール・ド・ロンサール Pierre de Ronsard(1524-1585)は、オード作者として華々しい活躍を始めた。オードとは、歌われる詩 Chant Lyrique とも呼ばれるように、本来リュートなどの楽器の伴奏に合わせて歌われるものであった。だから他の詩形に比べて、音楽的な要素が非常に大事にされる。

マルスリーヌ・ヴァルモール Marceline Desbordes Valmore の詩「離れ離れのふたり」Les Séparés(壺齋散人訳)

  書かないで わたしは悲しくて消えてしまいたいほど
  あなたのいない夏は 灯りのない夜のよう
  あなたを抱けない苦しさから腕をむなしく組んでは
  自分の胸を叩いているの まるでお墓を打つように
  だから手紙を書かないで!

マルスリーヌ・ヴァルモール Marceline Desbordes Valmore の詩「失った秘密」Secret perdu(壺齋散人訳)

  何が慰めになるの? わしじゃと学問がいった
  「多くの秘密で以ておまえを楽しませてやろう」
  そこでわたしは沢山の本に囲まれて過ごした
  けれど涙はかわかなかったわ いつも泣いていたの

マルスリーヌ・デボルド・ヴァルモールの詩「花の散った花冠」La Couronne effeuillée(壺齋散人訳)

  花の散った花冠を運んでいきましょう
  お父様の花咲くお庭まで
  そこに花もわたしの心も撒き散らしましょう
  お父様は苦しみをいやす秘密をご存知だから

マルスリーヌ・ヴァルモール Marceline Desbordes Valmore の詩「イネス」Inès(壺齋散人訳)

  あなたのことは何もいわない だってかたくななんだもの
  そうよ あなたはいつもそうなの でも好きよ
  あなたをわたしの胸に迎えて わたしは何もいわない
  なのに あなたは不平だらけ それじゃ生きてる価値なんてないわ

マルスリーヌ・デボルド・ヴァルモールの詩「サアディのバラ」Les roses de Saadi(壺齋散人訳)

  今朝あなたにバラの花を届けようとして
  ドレスの帯にいっぱい差し込んでみたら
  結び目がはちきれそうになってしまいました

マルスリーヌ・ヴァルモール Marceline Desbordes Valmore の詩「心の叫び」Un Cri(壺齋散人訳)

  ツバメさん ツバメさん ツバメさん
  この世に愛なんてあるのかしら
  もしあるのなら教えてちょうだい
  あなたと一緒に探しにいくから

マルスリーヌ・ヴァルモールの詩「鐘と涙」Les cloches et les larmes(壺齋散人訳)

  地上では鐘が鳴っています
  神様! あらゆるものが泣いています

マルスリーヌ・ヴァルモールの詩「女の手紙」Une lettre de femme(壺齋散人訳)

  わたしだって知ってるわ 女が手紙を書くものじゃないなんて
  でも書いてしまうのよ
  遠くにいてもあなたには私の心を読んでほしいの
  だからわたしのほうからお便りするの

マルスリーヌ・ヴァルモール Marceline Desbordes Valmore の詩「あなた」Toi(壺齋散人訳)

  新鮮な朝 輝く光
  熱気を帯びたお昼 それらとはさようなら
  夜がやさしくわたしの瞳を訪れると
  音もない暗闇の中でわたしは愛を夢見るの
  すると嫉妬深い時の流れがわたしにまとわりつき
  とらわれの鳥がわたしのそばで物憂げに動く
  そんなものたちを眺めながら わたしは
  ひとりぽっちなのを感じるわ でも忘れない
  あなたのことは

マルスリーヌ・デボルド・ヴァルモールの詩「わたしの部屋」Ma chambre(壺齋散人訳)

  わたしの部屋は高いところにあって
  窓が空に開いていて
  青白い顔の
  お月様がお客様
  下で誰か呼び鈴を鳴らしてるけど
  今日はもういいわ
  あの人じゃないんだったら
  だれにも会いたくないんだから

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