先稿「食料が燃料に化ける」の中で、とうもろこしのバイオ燃料化の問題点について触れた。その最たるものは、とうもろこしの資源としての希少性であろう。
とうもろこしは、温帯の農地で栽培される植物であり、供給能力には自ずから限界がある。また、人の主食となるほか、家畜の飼料ともなっている。そこへバイオ燃料の需要が割り込むわけであるから、とうもろこし価格は上昇し、深刻な食糧問題を引き起こすばかりか、燃料資源としても割高となって、やがて行き詰りに直面せざるをえない運命だ。
とうもろこし以外に、バイオマス資源として期待されているのはサトウキビだ。サトウキビは熱帯で育ち、とうもろこしより収穫を期待できる。しかも、とうもろこしが炭水化物をいったん砂糖に転換させてエタノール化する必要があるのに対して、その手間を省ける点からも、エネルギー上の効率がよい。したがってエタノールの生産コストを相対的に低く抑えることが出来る。
今のところ、サトウキビのエタノール化に一番成功している国はブラジルである。ブラジルは1970年代の石油危機を教訓にして、代替燃料としてのエタノールの生産に国を挙げて取り組んできた。ブラジルでは今や、液体燃料の4割以上をサトウキビのエタノールでまかなうまでに至っている。
これも一国の燃料をまかなうためだけであるなら問題がなかったろうが、アメリカなど他の国が相乗りし、サトウキビ・エタノールの需要が急上昇するようなことになると問題がないわけではない。ブラジルの自然保護団体は、サトウキビ畑の拡大のためにアマゾンの森林が更に消滅することを恐れている。
バイオマスを燃料化するに当たっては、食料需要とのバランスや自然環境への影響を十分考慮に入れなければならない。
そうはいっても、バイオ燃料は再生可能燃料ともいわれるように、現存する地球のエネルギーバランスを崩すことなく、エネルギー消費が出来るという点で、やはり魅力ある資源である。地球上には、食用植物のほかにも、膨大なバイオマが存在している。要はそれらを、いかに効率的に資源化するかということだろう。
たとえば、アメリカのプレーリーに生えているスイッチグラスなどは、いままでは単なる雑草に過ぎなかった。だが最近、この植物のセルロースからエタノールを作れることがわかってきた。その資源化が商業上なりたてば、いままでのやっかいものが一躍貴重な資源に変わるわけである。スイッチグラスに似たようなバイオマスは地球上至る所にあるはずだ。
地球温暖化対策を進めるために、化石燃料にかわるクリーンなエネルギーの開発が急がれているが、当面はバイオマス資源がその中心となることはまちがいない。この場合、資源が特定の植物に集中すると、思いがけない問題が生ずることは上に見たとおりである。人間の知恵で乗り越えていかねばならないだろう。
でないと、新たな囲い込みが起こらないとも限らない。かつての囲い込みは、羊が人間を追い出す結果をもたらしたが、新たな囲い込みでは、バイオマスが人間を追い出すことになるだろう。
関連リンク: 日々雑感
コメントする