この世に生まれてくる人間の子どのもうち、女子より男子のほうが割合が多いことはよく知られている。男子は女子に比較して、幼児期の死亡率が高いために、その埋め合わせをするかのように、自然が巧妙な仕掛けをしたのだろう。ところが近年、その男女間比率の差が次第に縮小する傾向が見られるという。Male Births declining in the US and Japan By Amy Norton : Reuter
Environmental Health Perspectives のオンライン版によれば、1970年以降30年間に、アメリカで出生した男子の女子に対する比率は105.5パーセントから104.6パーセントに減少し、同じ期間の日本では、106.3パーセントから105.5パーセントに減少した。一見小さな数字に見えるが、そこには重要なファクターが潜んでいると研究者はみている。
というのも、この現象の背後には、環境汚染物質による男の生殖器官への影響が絡んでいると思われるからである。ある種の農薬や重金属類、有機溶剤やダイオキシンといった物質は、男の生殖器官を侵し、テストステロン(男性ホルモン)の分泌や精子生成能力の低下を引き起こすとともに、睾丸のガンを発生させることがわかってきている。このプロセスの中で、男性の精子中にあるY 染色体の破壊が進んでいるのではないかと疑われているのである。(Y 染色体はいうまでもなく、子どもの性を男に決定づける因子)
この懸念を裏付けるようなデータがある。イタリアのセヴェーソという町では1976年に化学工場が爆発し、大量のダイオキシンが空気中に飛散したが、その後この町で出生した子どもは、男より女の方が多かった。また、ロシアの化学プラント(環境汚染物質を生産している)で働く従業員を対象にした調査では、男の従業員の子どもの性別は、男38:女62の割合であったのに対して、外部で働く夫を持つ女の従業員の場合には、ほぼ通常の出生比率であったという。
ある種の有機物質が男性の精巣に悪影響を及ぼす蓋然性は、すでに長い間懸念されてきたことである。たとえば、PCBが魚を経由して人体に蓄積された時、男性の精巣が破壊的な影響を被ることについては、実証的な研究成果が出ている。だが、こうした懸念が一国規模の広がりの中で、厳然とした数字として浮かび上がったのはこれがはじめてだろう。
この記事の筆者は、我々の日常生活の周りに有害物質があふれている事実をあげて、人類の未来のために警鐘を鳴らしている。記者によれば、成分を明示することなく「芳香」を売り物にするような製品は、絶対に避けた方がいいそうだ。
ところで、日本人がよく口にする冗談に、男が強い夫婦には女の子が生まれ、女が強い場合には男の子が生まれるという俗説がある。日本人の中にはこれを本気で信じている人もいるようだが、事実はもっと複雑なようだ。
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