フランソア・ヴィヨンの詩集「遺言の書」のハイライトは、ヴィヨンが自らのために作った墓碑銘とロンドである。遺言がテーマなのであるから、自分の手で自分自身のための墓碑銘を書いておきたかったのであろう。墓碑銘にロンドを添えたのは、詩人としての矜持からと思われる。
ヴィヨンは後に、絞首刑の判決を受け、ついに年貢を納める時がきたと観念したことがあった。その時にも、改めて墓碑銘を書いている。「吊るされ人のバラード」である。
「遺言の書」にあっては、死はいまだ切羽詰ったものではなかった。だからこの書の中の墓碑銘は、どこかしら気持ちの余裕が感じられる。
(墓碑銘とロンド:拙訳)
この墓に横たわるものは
愛人によって殺された不幸な男
しがなく哀れな学士にして
その名をフランソア・ヴィヨンといった
自身には何の収穫もなかったが
気前のよさは知る人ぞ知る
ベッドも テーブルも 持てるものはみな遺贈した
故人のために このロンドを歌って欲しい
(ロンド)
この男に永遠の安らぎを与えたまえ
主よ 尽きせぬ光明よ
生前には一皿の食事に事欠き
一掴みのパセリにもありつけなかった男に
髪も鬚も眉毛も用のない今
一株の蕪に苦労することもない
この男に永遠の安らぎを与えたまえ
主よ 尽きせぬ光明よ
厳しい追い立てで追放され
尻を鍬もてどつかれた男
この男はいつも叫び続けていた
俺のために祈ってくれと
この男に永遠の安らぎを与えたまえ
主よ 尽きせぬ光明よ
生前には一皿の食事に事欠き
一掴みのパセリにもありつけなかった男に
EPITAPHE
CY GIST ET DORT EN CE SOLLIER,
QU'AMOURS OCCIST DE SON RAILLON,
UNG POVRE PETIT ESCOLLIER,
QUI FUST NOMÉ FRANÇOYS VILLON.
ONCQUES DE TERRE N'EUT SILLON.
IL DONNA TOUT, CHASCUN LE SCET:
TABLES, TRESTEAULX, PAIN, CORBEILLON.
GALLANS, DICTES EN CE VERSET:
Rondeau
Repos eternel, donne à cil,
Sire, et clarté perpetuelle,
Qui vaillant plat ni escuelle
N'eut oncques, n'ung brain de percil.
Il fut rez, chief, barbe et sourcil,
Comme ung navet qu'on ret ou pelle.
Repos eternel donne à cil.
Sire, et clarté perpetuelle,
Rigueur le transmit en exil,
Et luy frappa au cul la pelle,
Non obstant qu'il dit: "J'en appelle!"
Qui n'est pas terme trop subtil.
Repos eternel donne à cil.
Sire, et clarté perpetuelle,
Qui vaillant plat ni escuelle
N'eut oncques, n'ung brain de percil.
関連リンク: 詩人の魂>フランソア・ヴィヨン
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