「言葉なき恋歌」に収められた作品には、恋のけだるさを歌ったものが多い。それらの恋が男女の間のものなのか、それともヴェルレーヌとランボーとの間のものなのか、一篇づつから読み取ることはむつかしい。
しかし、ヴェルレーヌはランボーとの共同生活の間、妻のマチルドを思いやることは時にはあったが、それ以外の女に心を引かれたことはない。だから、ヴェルレーヌがこの詩集の中で描く女の姿は、半ば以上ランボーのものだったと考えてよい。
「涙あふるる我が心」と題された作品は、ヴェルレーヌの詩の中でも人口に膾炙される一品だ。この詩にはランボーの短い言葉が添えられている。
「街にはしめやかに雨が降る」というものである。
涙あふるる我が心
我が心に降るは涙
巷に落ちる雨のように
それはなんという物憂さが
我が心に染み入ることか
かの雨のやさしき響きは
地上を這い 屋根を伝う
疲れ果てたる我が心に
やさしく響く雨の歌よ
涙は降る わけもなしに
うつろとなった心のうちを
裏切りの気持ちはなきや
この悲しみはどこからきたる
涙のわけを知らずというは
このうえなくつらきことなり
愛もなく 憎しみもなく
我が心は痛みに満ちたり
Il pleure dans mon coeur:Paul Verlaine
Il pleure dans mon coeur
Comme il pleut sur la ville ;
Quelle est cette langueur
Qui pénètre mon coeur ?
Ô bruit doux de la pluie
Par terre et sur les toits !
Pour un coeur qui s'ennuie,
Ô le chant de la pluie !
Il pleure sans raison
Dans ce coeur qui s'écoeure.
Quoi ! nulle trahison ?...
Ce deuil est sans raison.
C'est bien la pire peine
De ne savoir pourquoi
Sans amour et sans haine
Mon coeur a tant de peine !
関連リンク: 詩人の魂>ポール・ヴェルレーヌ:生涯と作品
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