ウィリアム・ブレイクの詩集「経験の歌」 Songs of Experience から「迷える少年」 A Little Boy Lost (壺齋散人訳)
迷える少年
誰だって自分のこと以上に
人を愛したり敬ったりはできないものさ
自分以上に大事なものが
この世にあるなんて考えられない
父なるものなんて 愛せるもんか
兄弟たちだって同じなのに
好きだとしても ドアの回りで
パンくずを食ってる小鳥程度にさ
こう子どもが嘯くのを聞いて
牧師は怒りに震えて 髪をつかみ
子どもを自分のほうに手繰り寄せた
それを見たみんなは拍手喝采
牧師は祭壇の前に立っていった
見よ この罰当たりの小悪魔を
聖なる神の教えに対して
ぐずぐずと屁理屈をいっておるわ
子どもは泣いたが聞き入れられない
親たちも泣いたが後の祭り
子どもは見る見る裸にされ
鉄の鎖で縛られると
祭壇の中で焼かれてしまった
昔の多くの異教徒のように
親たちは泣いたが後の祭り
イギリスではよくあることだ
「迷える少年」という題名は、英語では「迷子になった男の子」と冠詞一つ違うだけだが、中身は全く異なっている。これは、宗教的熱狂が無垢な少年をも火あぶりにして、殺してしまうことを告発しているのである。
2行目までで描かれている少年の心は、普通の少年がいだくごく普通の感情に過ぎない。ところが伝統的な教会にとっては許しがたい冒涜なのだ。人は、他者をそして神を、自分以上に愛さなければならない。これがキリスト教の教える尊い義務である。少年といえども、義務の蹂躙は許されず、その涜神の行為は懲らしめられねばならない。
こうして少年は荒々しく取り扱われ、それに対して世間の人々は拍手喝采する。少年が泣いて謝っても、親たちが命乞いをしても、もう手遅れだ。少年は鉄の鎖で縛れら、祭壇の中で火あぶりにされる。
すさまじいイメージというほかはないが、これは伝統的な教会に対して抱いていたブレイクの憎悪が、激しく表現された作品なのだといえる。
A Little Boy Lost William Blake
Nought loves another as itself
Nor venerates another so.
Nor is it possible to Thought
A greater than itself to know:
And Father, how can I love you,
Or any of my brothers more?
I love you like the little bird
That picks up crumbs around the door.
The Priest sat by and heard the child.
In trembling zeal he siez'd his hair:
He led him by his little coat:
And all admir'd the Priestly care.
And standing on the altar high,
Lo what a fiend is here! said he:
One who sets reason up forjudge
Of our most holy Mystery.
The weeping child could not be heard.
The weeping parents wept in vain:
They strip'd him to his little shirt.
And bound him in an iron chain.
And burn'd him in a holy place,
Where many had been burn'd before:
The weeping parents wept in vain.
Are such things done on Albions shore.
関連リンク: 英詩のリズム>ブレイク詩集「経験の歌」
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