ボードレールの詩集「悪の華」 Les Fleurs du Mal から「旅のボヘミアン」Bohémiens en voyage を読む。(壺齋散人訳)
旅のボヘミアン
鋭い目つきの予言の民 ボヘミアンが
昨夜旅立ちをした 子どもたちを背負って
またはその旺盛な食欲をみたすために
垂れ下がったおっぱいをあてがいながら
するどい武器を持った男たちは
家族の群れる馬車の脇を歩き
重い目を見開いて空を見ては
砕け散った幻想を嘆き悔やむ
こおろぎが砂の中のねぐらから姿を現し
ジプシーたちを鳴き声で見送る
女神キュベレはジプシーに生気を贈り
岩を緑となし 砂漠に花を咲かせるが
ジプシーたちの前には 暗い未来の
あの見慣れた世界が待っていよう
ジプシーの放浪への旅立ちを描いたこの作品は、ジャック・カロの同名を冠した版画に触発されて書いたのであろうとする説がエミール・ベルナールによって提唱された。版画の図柄が詩のイメージにぴったり重なりことから、この説は定着した。
ジャック・カロは17世紀初期にロレーヌ地方で活躍した銅版画家で、当時の庶民の風俗をリアルに描いたことで知られている。ジプシーの生活も好んで取り上げた。上の絵はこの詩のもとになったとされるものだが、さすらいの民ジプシーの旅の厳しさがよく表現されている。ボードレールの詩にあるように、女たちは子どもを背負い、あるいは垂れ下がった乳を子どもにあてがっている。男たちは女子どもを守るように、槍や銃を担いでいる。
ボードレールの独自の創意といえるのは、こおろぎや女神を登場させて、ジプシーの厳しい旅に暖かい視線を送らせている所だ。

Bohémiens en voyage — Charles Baudelaire
La tribu prophétique aux prunelles ardentes
Hier s'est mise en route, emportant ses petits
Sur son dos, ou livrant à leurs fiers appétits
Le trésor toujours prêt des mamelles pendantes.
Les hommes vont à pied sous leurs armes luisantes
Le long des chariots où les leurs sont blottis,
Promenant sur le ciel des yeux appesantis
Par le morne regret des chimères absentes.
Du fond de son réduit sablonneux, le grillon,
Les regardant passer, redouble sa chanson;
Cybèle, qui les aime, augmente ses verdures,
Fait couler le rocher et fleurir le désert
Devant ces voyageurs, pour lesquels est ouvert
L'empire familier des ténèbres futures.
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