暗いところで本を読むと近眼になるとか、髪の毛や爪は死んだ後でも伸び続けるとか、人間の身体に関する俗説がまことしやかに語られている。それらは日常の経験に支えられているように思われるので、医師の中にも支持するものがいるほどだ。だが厳密に調べると、医学的な根拠のないものが多いそうだ。
British Medical Journal の最近号は、こうした俗説のいくつかについて、科学的な分析結果を発表した。新しい年を迎えるにあたって、旧い迷信を振り捨て、科学的な態度を身につけてもらいたいとの配慮かららしい。
① 暗いところで読書すると近眼になる
これは親の間で根深く持たれている信念である。誰でも小さな子を持つ親は、暗いところで本を読んだり、あるいはテレビやパソコンの画面を見てはいけないと、子どもに言い聞かせていることだろう。調査結果によれば、こうした行為は一時的に目の筋肉を収縮させることはあっても、近眼にまで発展することはないという。もしこの説が本当なら、蝋燭の光を頼りに読書していた昔の人々はみな近眼になっていただろう。
② 病院の中で携帯電話を使ってはならない
これは携帯電話から出る電波が精密な医療機器に悪影響をもたらすという理由から言われていることだ。しかしメイヨー・クリニックが実施した調査によれば、携帯電話の電波が医療機器に及ぼした影響はほとんど無視できる程度だったという。(2005年の実験では510件中1.2パーセント、2007年には300件中0パーセント)
③ 爪と髪の毛は死後も伸び続ける
爪と髪の毛の成長はホルモンによって制御されている。これもよく耳にする説だが、根拠は薄弱だという。死んでしまえばホルモンの分泌は止まるので、爪や髪の毛が伸びることはない。ただ、死後、皮膚は萎縮して突っ張った状態になる。それが爪を浮き上がらせ、伸び続けているような印象をもたらすのかもしれない。
④ 我々の脳は普段10パーセントしか働いていない
これは、今世紀の初頭に蛇の油を販売した業者が、その効能として能の活性化をうたい文句にしたことから広まったらしい。事実は、人間の脳は常時殆どの部分が働いているそうだ。
⑤ 毛を剃ると、生えてくる毛は以前より濃くなる
美容に熱心な女性は、この説を聞くと、無駄な毛は除きたいし、かといって毛深くもなりたくないしと、ジレンマに苦しんでいることだろう。だがそういう事実はないそうだ。毛が生えかわる時には、最初は先端が丸まっているので、色が濃くなったような印象を与えるのかもしれない。それらも空気に触れている間にまっすぐになり、以前と同じような状態になる。
⑥ 毎日コップ8杯の水を飲むべきだ
アメリカの調査機関が1945年に発表したところによれば、成人の人間は毎日2.5リットルの水分を補給する必要があるとされていた。この説が一人歩きしてこのような俗説が生まれたのであろう。普通我々は日常の食事を通じてこれくらいの水分を摂取しているので、あらためて水を飲む必要は殆どの場合ない。余分な水分の補給は、かえって細胞のイオン・バランスを崩すことにつながりかねないという。
筆者自身は、何かの講演会の中で、普通の人間は食事だけでは十分な水分を補給できない場合が多いので、できれば寝る前にコップ一杯の水を飲んだほうがよいという話を聞いたことがある。3パーセント程度のアルコールを含んだ水であればなおよいということだった。果たしてどちらが本当なのか、もう少し突っ込んだ説明が聞きたいところだ。
(参考)Top Seven Health Myths by Sarah Kliff : Newsweek
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