京都大学山中教授らのグループが人の皮膚細胞を用いて万能細胞を作り出したことから、再生医療が俄かに現実味を帯びてきた。教授らはこの方法を用いて、既にネズミの心臓に近いものを作り出しているそうだ。この分野はいまや世界中の研究者の間で功名争いの最前線になっており、誰が最も早く人間の臓器や組織を人工的に作り出せるか、厳しい競争が繰り広げられている。
再生医療の方向性としては、山中教授らによる方法のほか、従来よりES細胞を基体にした方法が追及されてきた。ところが、これらとはまた一風変わったユニークな方法によって臓器再生を試みるクループが、最新の研究結果を発表して関係者を驚かせた。
ミネソタ大学のドリス・テイラー Doris Taylor らの研究グループは、死んだネズミの心臓を基体にして、それに別の生きたネズミの心臓細胞を注入することにより、死んだ心臓を生き返らせることに成功したという。
まず基体になる心臓を用意する。当然、心房、弁、血管がセットになっているものだ。これから、特殊な方法を用いて、細胞をことごとく消去する。どういうメカニズムで細胞だけを取り去ることが出来るのか、筆者には謎の多いところだが、こうすることによって、細胞のない心臓の枠組みだけが残るのだそうだ。骨組みだけでできた建物のようなものだ。
この基体(コラーゲンを主原料とし、ゼラチン状になっているそうだ)に、生まれたばかりかまだ胎児の状態にあるネズミの心臓から取り出した細胞を注入する。そうすると四日後には心臓の枠組みが収縮し始め、八日後には脈動し始めたという。つまりいったん死んで、ただの物質になってしまった心臓が、再び生命を取り戻したということらしい。
これが従来注目されていた二つの方法と異なるところは、単一の細胞を基体にしてそこから万能細胞を作り出し、それを成長させることによって、臓器や器官を作り出そうとするのではなく、既存の臓器の枠組みをそのまま利用して、それを手っ取り早く再生させようとするところにある。従前の方法が新築であるとすれば、これは改築といえるかもしれない。
この方法がもし人間にも適用可能であれば、死んだ人の心臓も生き返らせることが出来る。それを基体にして患者の細胞を注入し、患者の体質に合った心臓を作ることも可能である。
今のところ、この実験はネズミでは成功したが、豚の場合には成功していないそうだ。何故そうなのかよくわかっていないという。
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