ステファヌ・マラルメの詩「あらわれ」Apparition(壺齋散人訳)
月は悲しみに沈んでいた
涙にくれた翼の天使が夢見心地に弓を持ち
湿った花々に囲まれながら ビオラを弾くと
白く咽ぶ音は紺碧の花弁の上をすべっていった
あれは初めて君の接吻に祝福された日
わたしは自分の夢に殉教し
悲しみの匂いに酔った
その匂いに後悔も消えうせ
夢は心の中に舞い戻っていくのだった
私は古びた敷石に目を向けつつ歩んでいた
すると太陽の光を髪に受けた君が
夕べの街角に微笑みながら現れたのだ
君の姿は光の帽子を被った妖精のようで
少年の頃に夢の中で出会った気がした
妖精のいつも開き加減の両手からは
薫り高い星屑が雪のように降っていた
「あらわれ」と題したこの詩は、1883年が初出で、その後1887年の詩集に収められたが、書かれたのは1860年代だろう。マラルメはそれを手元に長く置いて、推敲を重ねていたのだと思う。
詩の中に出てくる女性のイメージは、妻のマリー・ジェラールと思われる。詩はその女性との始めての出会いをテーマにしているのだが、単なる出会いではなく、自分にとっての詩神との出会いであったと、とらえている。
最初の四句では、詩神としての女性が、羽根を広げ弓をもつ天使のイメージに描かれ、それは悲しみの情緒を伴っている。
次の五句は、女性と初めて結ばれたときの喜びを語り、最後の七句ではその女性の妖精のようなイメージが語られる。妖精の開かれた手からは星屑が舞い散るが、それはマラルメにとって、詩を構成する断片の数々に他ならなかった。
Apparition - Stéphane Mallarmé
La lune s’attristait. Des séraphins en pleurs
Rêvant, l’archet aux doigts, dans le calme des fleurs
Vaporeuses, tiraient de mourantes violes
De blancs sanglots glissant sur l’azur des corolles.
― C’était le jour béni de ton premier baiser.
Ma songerie aimant à me martyriser
S’enivrait savamment du parfum de tristesse
Que même sans regret et sans déboire laisse
La cueillaison d’un Rêve au cœur qui l’a cueilli.
J’errais donc, l’œil rivé sur le pavé vieilli
Quand avec du soleil aux cheveux, dans la rue
Et dans le soir, tu m’es en riant apparue
Et j’ai cru voir la fée au chapeau de clarté
Qui jadis sur mes beaux sommeils d’enfant gâté
Passait, laissant toujours de ses mains mal fermées
Neiger de blancs bouquets d’étoiles parfumées.
関連リンク: 詩人の魂>ステファヌ・マラルメ Stéphane Mallarmé :生涯と作品
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