杜甫の五言古詩「懐ひを遺る」(壺齋散人注)
憶與高李輩 憶ふ 高李の輩と
論交入酒壚 交を論(むす)んで酒壚に入りしことを
兩公壯藻思 兩公 藻思壯(さかん)にして
得我色敷腴 我を得て色は腴(よろこび)を敷(ひろ)げぬ
氣酣登吹臺 氣酣(たけなは)にして吹臺に登り
懷古視平蕪 古を懷ひて平蕪を視れば
芒碭雲一去 芒碭のかたに雲一たび去り
雁鶩空相呼 雁鶩 空しく相ひ呼ぶ
思い起こす 高適、李白の両先生と、仲良く酒場に入ったときのことを、ふたりとも藻思(文学)への思いが盛んで、自ら納得しては喜び合ったものだ
気分が高揚すると吹臺に登って、昔のことを回顧しながら平野を眺めわたせば、芒碭の方角に向かって雲がたなびき去り、雁と鶩(かも)とがむなしく呼び合うさまが見える
李白、高適とともに過ごした梁宋の旅は、杜甫にとって生涯の思い出になったようだ。奔放自在な李白と豪放磊落な高適、このはるかに年長の二人に、杜甫は自分にないものを感じ、大いなる憧れをも抱いた
晩年になった杜甫は、この二人と過ごした時間を思い出し、それを「遺懐」と題する長編古詩のなかで歌い上げた。
詩は開封での、二人との交わりを歌っている。開封は戦国時代の梁の都となって以来、交通の要所として栄えていた。その開封の郊外に吹臺と呼ばれる奏楽台がある。梁の孝王が建てたものだが、それ以前から、中国の伝説上の帝王禹にゆかりのある土地でもあった。
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