杜甫の五言律詩「前出塞九首其六」(壺齋散人注)
挽弓當挽強 弓を挽かば當に強きを挽くべし
用箭當用長 箭を用ひなば當に長きを用ふべし
射人先射馬 人を射らば先づ馬を射るべし
擒賊先擒王 賊を擒にせんとすれば先づ王を擒にすべし
殺人亦有限 人を殺すには亦限り有り
列國自有疆 國を列(た)つるには自づから疆有り
苟能製侵陵 苟くも能く侵陵を製せば
豈在多殺傷 豈に多く殺傷するに在らんや
弓を引こうとすれば強い弓を引け、矢を射ようとすれば長い矢を射よ、人を射ようとすればまず馬を射よ、敵を捕虜にしようとすればまず王を捕虜にせよ
人を殺すにも限りがある、国を立てるには国境というものがある、いやしくも敵の侵略を防げれば、多くの殺傷をするには及ばない
兵車行とほぼ同じ頃に書かれた。兵車行は戦場へと駆り出されていく戦士と家族の別れをテーマとしたが、九首からなるこの一連の作品は、辺境にあって戦場へ赴かんとする兵士の立場になって書かれている。
もともと単に出塞と題されていたが、後に同じ題名で一連の作品を書き、それを後出塞と題するにあたり、前出塞と改められた。
六首目のこの作品は最も有名になったもの。「人を射らば先づ馬を射るべし」の句は、戦い方の極意に通じるものとして、ことわざのように引用されることが多い。
関連サイト: 杜甫:漢詩の注釈と解説
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