今年2009年のノーベル平和賞はアメリカのオバマ大統領に贈られることになった。その一報が流されるや、世界中に複雑な反応が巻き起こった。オバマは大統領に就任してまだ一年にもなっていない。核廃絶や平和外交をめぐって、強力なメッセージを発し続けてきたとはいえ、目に見えた形での功績はほとんど達成していない、最近は内政面で国民の不満に直面し、支持率も急激に下がっている。そんな現在進行形の大統領にノーベル賞が贈られることに、戸惑いの気持ちを感じた人が多かったことだろう。
オスロのノーベル平和賞選考委員会は、オバマ授賞の理由を次のように述べている。
オバマはアメリカの大統領として、国際政治のあり方に新しい状況をもたらした。国家間の諸問題を解決する手段として、対話と交渉を重視する姿勢を強め、また核のない世界の実現に向けて、強い意志を表明した。地球環境問題についても、民主主義と人権についても、踏み込んだ姿勢を示している。彼のこうした努力は、世界平和の実現にとって、心強いものだ、と。
選考委員長のヤーグラント Thorbjorn Jagland 氏は、ニューヨーク・タイムズのインタビューに応じて、委員会の声明をつぎのように補強した。
我々が重視したのは、過去数年間に誰が国際平和に最も貢献したかということだ、その点からみるとオバマ以上に貢献した人物がいたとはいえない、彼はアメリカ大統領としてのこれまでの活動を通じて、世界平和に向けての強いメッセージを発してきた、世界はそのメッセージにそって動いていく必要がある、いまオバマがノーベル平和賞を受賞することは、これまでの活動にとどまらず、未来の平和にとっても非常に意味のあることだ、と。
ノーベル賞選考委員会は、過去の活動とあわせて、未来の可能性をも考慮にいれて、今回の決定を選んだようだ。
過去にも同じようなことがあったと、ヤーグランド氏はいう。1971年に受賞したドイツのヴィリー・ブラント首相は、東西の架け橋になっていることを評価されたが、そのときには彼の努力は目に見える形にはなっていなかった。だがやがてあのベルリンの壁が崩壊するという歴史的な事態が起こった。
1990年に受賞したゴルバーチェフはソ連の民主化を評価されたが、やがてそれがペレストロイカを加速させ、ソ連邦の崩壊と世界の民主主義の拡大につながった。
ヤーグランド氏はさらに言う。最近の世界のあり方は、ともすれば話し合いの努力を通じてではなく、力を行使することで自分の意見を押し通すような風潮がまかり通っている。こうした風潮を改め、平和な手段によって国家間の関係を築き上げていくうえで、オバマがこれまで果たしてきたことは評価されるし、ノーベル平和賞の授与がそうした努力を後押しすることができれば、人類の未来にとって望ましいことといえる、と。
ところで当のオバマ大統領は、今回の受賞を手放しでは喜んでいないようだ。受賞後初めての公式演説でも、そのことには一切触れなかった。
もちろんうれしくないわけではないだろう。だがいまはそれを表に出すときではない。今回の受賞は、半分以上は未来への期待を含んだものだ。だからこの受賞を、未来へ向かっての励ましと捉えるべきであって、過去に対する評価と捉えるべきではない、自分はこれから茨の道を歩みだすのだ、受賞の喜びに浸っていられる場合ではない、そう考えているのかもしれない。
(上の写真は、今年2009年4月にプラハで行った、核兵器廃絶にかんする演説の光景)
(参考)In Surprise, Nobel Peace Prize to Obama for Diplomacy By Walter Gibbs and Sheryl Gay Stolberg
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