杜甫の七言古詩「曲江三章章五句其三」(壺齋散人注)
自斷此生休問天 自ら此の生を斷つ 天に問ふを休(や)めん
杜曲幸有桑麻田 杜曲 幸に桑麻の田有り
故將移住南山邊 故に將に南山の邊に移住して
短衣匹馬隨李廣 短衣匹馬 李廣に隨ひ
看射猛虎終殘年 猛虎を射るを看て殘年を終へん
自分から出仕の望みを断ったからには、天に問うのをやめよう、杜曲の地には幸い桑麻の田がある、それ故南山の邊に移住して、粗末ななりをしながらかの李廣の後を追い、彼が猛虎を射るのを見ながら、余生を送ることにしよう
天宝十一年(752)杜甫四十一歳のときの作。世に容れられぬ嘆きを、貧交行とは違う角度から歌った。
曲江は長安郊外の風光明媚な地。春には有楽の客でにぎわうが、杜甫がこの詩を書いたのは秋も深まった頃のこと。秋風が身にしみて、色々なことを思わせる時期だ。
書き出しからして激越さを感じさせるのは、いくら努力してもむくわれないことに、怒りを禁じえないからだろうか。もはや出世のことは考えるのをやめて、そろそろ隠棲でもしようかと、自暴自棄的なところも伺える。
李廣は伝説中の人物。山野でトラを射って暮らしているうち、自分自身がトラになった。杜甫がそんな人物に自分を重ね合わせているのは、たんなる隠棲ではなく、そこに世を恨む気持ちが含まれていることを感じさせる。
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