杜甫の五言古詩「羌村三首其一」(壺齋散人注)
崢嶸赤雲西 崢嶸たり赤雲の西
日腳下平地 日腳平地に下る
柴門鳥雀噪 柴門 鳥雀噪ぎ
歸客千裡至 歸客 千裡より至る
妻孥怪我在 妻孥我が在るを怪しみ
驚定還拭淚 驚き定まりて還た淚を拭ふ
世亂遭飄蕩 世亂れて飄蕩に遭ひ
生還偶然遂 生還偶然に遂げたり
鄰人滿牆頭 鄰人 牆頭に滿ち
感嘆亦歔欷 感嘆して亦歔欷す
夜闌更秉燭 夜闌にして更に燭を秉る
相對如夢寐 相對すること夢寐の如し
高々とした夕焼け雲が西の空にかかり、その一端が大地にのびる、我が家の柴の戸では鳥雀が騒がしく鳴き、そこへと千里の彼方から自分は帰ってきたのだ
妻や子は自分が帰ってきたことを怪しみ、驚きが収まると涙をぬぐうて安堵する、世の中が乱れて艱難にあい、このように生還できたのは偶然のことだ
隣人たちは我が家の垣根に集まり、感嘆してすすり泣くものもいる、夜が更けてもなお蝋燭の火をとり、妻と一緒にいられることが夢のように思われる
羌村は杜甫が安全のために家族を置いてきた鄜州の村。杜甫は長い旅の末、やっと二年ぶりで家族と会うことができた。この詩にはその喜びが素直に歌われている。「月夜」の中で妻や子への思いを切々に歌っていた杜甫のことだ。その喜びはひとしおのものだったろう。末尾の節にある「相對如夢寐」という句が、それをよく語っている。
関連サイト: 杜甫:漢詩の注釈と解説
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