杜甫の七言律詩「天末にて李白を懷ふ」(壺齋散人注)
涼風起天末 涼風天末に起る
君子意如何 君子 意 如何
鴻雁幾時到 鴻雁幾時か到る
江湖秋水多 江湖秋水多し
文章憎命達 文章命の達するを憎み
魑魅喜人過 魑魅人の過るを喜ぶ
應共冤魂語 應に冤魂共に語るなるべし
投詩贈汨羅 詩を投じて汨羅に贈らん
涼風がここ天末にも吹き始めました、ご機嫌いかがですか、あなたの便りを携えた鴻雁はいつやって来るのでしょう、あなたのおられる江湖にはさぞ秋の水が増していることでしょう
文章の達人はとかく人から憎まれる、魑魅魍魎は人が通りがかるのを喜ぶ、あなたは今頃屈源の魂と語っておられるのでしょうか、私も詩を投じて汨羅にいるあなた方に贈ろうと思います
天末とは辺境の地、その辺境たるここ秦州にも秋の風が吹き始めた。久しく会うことのない李白もまた、この秋の風を身にしみているだろうか。
杜甫がこの詩を書いた年、李白はいったん夜郎に流されたが、途中恩赦をこうむって江南の地に身を寄せた。そんな李白の消息を、杜甫がどれだけ知っていたかはわからぬが、詩の中に屈源の魂をほのめかしているので、あるいは李白は死んだものと思い込んでいたのかもしれない。
関連サイト: 杜甫:漢詩の注釈と解説
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