杜甫の七言律詩「寓目」(壺齋散人注)
一縣蒲萄熟 一縣蒲萄熟し
秋山苜蓿多 秋山苜蓿(もくしゅく)多し
關雲常帶雨 關雲常に雨を帶ぶるも
塞水不成河 塞水河を成さず
羌女輕烽燧 羌女烽燧を輕んじ
胡兒製駱駝 胡兒駱駝を製す
自傷遲暮眼 自ら傷む遲暮の眼に
喪亂飽經過 喪亂飽くまで經過するを
そこらじゅういったいに葡萄の実が熟し、秋の山には馬ごやしが生える、関所の空には常に雨雲が立ち込めるが、城塞の高台に降った雨は川とはならない
羌女は戦いの烽火を気にせず、胡兒はのんびりと駱駝を引いていく、こんなに年を老いた目に、戦いの止む気配が無いのを見るのはつらいことだ
秦州での生活は杜甫にとっては快適なものではなかった。わずか二ヶ月でここを離れ、蜀に移っていることからも、推測される。次第に憂いに沈んでいく杜甫であるが、折にふれて書いた詩の中には、そんな杜甫の気持ちが素直に現れた優れた詠懐の詩がある。
蒲萄も苜蓿もシルクロードを経て西域から伝わってきたものだ。そして町の中には羌女、胡兒の姿が目立つ。ここは唐の領土とはいえ、辺境にあって異民族と接しながら成り立っているのだ。杜甫にはそんなところが、この地になじめない理由になったのかもしれない。
関連サイト: 杜甫:漢詩の注釈と解説
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