杜甫の七言律詩「野老」(壺齋散人注)
野老籬邊江岸回 野老の籬邊江岸回り
柴門不正逐江開 柴門正しからず江を逐って開く
漁人網集澄潭下 漁人の網は集る澄潭の下
賈客船隨返照來 賈客の船は返照に隨って來る
長路關心悲劍閣 長路關心劍閣を悲しむ
片雲何意傍琴台 片雲何の意ありてか琴台に傍ふ
王師未報收東郡 王師未だ報ぜず東郡を收むると
城闕秋生畫角哀 城闕秋生じて畫角哀し
野老たる自分の家の垣根は川に沿っており、柴門もまともな形ではなく川の流れにそって曲がっている、漁人が集まってきて川の流れに網を投じ、客船は夕日に伴ってやってくる
長い道を隔てた故郷を思うと劍閣に隔てられはるかかなたなのを悲しむ、一片の雲が琴台に寄り添っているように見えるがどういうつもりなのだろう、いまだ皇軍が勝利して洛陽を収めたという便りを聞かない、ここの城闕はすっかり秋になって角笛の音のみが悲しく響き渡る
杜甫は成都に流れ着いて長らくそこに腰を落ち着けるが、故郷の洛陽のことは片時も忘れたことがなかった。いつか官軍が洛陽を平定したときにはまっさきに駆けつけたい、いつもそう思って過ごしていた。
この詩はそんな杜甫の望郷の念がふと漏れ出てきたものだ。
関連サイト: 杜甫:漢詩の注釈と解説
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