杜甫の七言律詩「春夜に雨を喜ぶ」(壺齋散人注)
好雨知時節 好雨時節を知り
當春乃發生 春に當って乃ち發生す
隨風潛入夜 風に隨って潛んで夜に入り
潤物細無聲 物を潤して細やかにして聲無し
野徑雲俱黑 野徑雲俱に黑く
江船火獨明 江船火獨り明らかなり
曉看紅濕處 曉に紅濕ふ處を看れば
花重錦官城 花は重し錦官城
好雨も時節を知っているとみえて、春を迎えるやたちまち降ってきた、風に吹かれながら夜通し降り続け、音も立てずにあたり一面を潤す
野の道も雲も真っ暗ななか、川舟の明かりだけが光っている、暁になって雨にぬれた紅の景色を眺めれば、それは花が咲き広がった錦官城だ
草堂でののんびりとした生活を歌った詩の中でも、もっとも艶を感じさせる一首だ。雨でさえ季節の移り変わりを知っており、時が熟せば降ることを忘れない。自然の営みは造物主の意図を忠実になぞって動いているようではないか。自分の命もまた、そんな雄大な営みの一部をなしているにすぎない。あくせくしても仕方がないではないか。
そんな開き直ったような杜甫の境地が伝わってくる。
関連サイト: 杜甫:漢詩の注釈と解説
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