帝京大病院で多量の院内感染をもたらした多剤耐性菌は(上の写真:国立感染症研究所提供)、アシネトバクターという新手の病原菌だ。新手といっても、自然界には土壌の中などに普通に存在し、毒性が弱く、健康な人にはほとんど影響を与えないが、体力の衰えた人にとっては、肺炎や敗血症を引き起こし、命取りになりかねないという恐ろしい細菌だ。
多剤耐性菌という名の通り、多数の抗生物質に対して抵抗力をもち、そのような薬を投与しても利かないことから、非常に恐ろしい結果につながる。今回の場合、46人が感染し、そのうち9人については、感染と死亡との因果関係が否定できないという。幸い、投与した抗生物質のなかに、効き目を発揮したものがあったので、被害は拡大せずにすんだということだが、状況の確認が遅れていたら、もっと大きな被害につながったかもしれないという。
アシネトバクターによる院内感染は、日本の病院ではこれまであまり例がない。2008年秋から2009年冬にかけて、福岡大病院で26人が感染し、4人が死亡した例があるが、そのさいには外国から持ち込まれた多剤耐性菌が原因だったとされる。
欧米やアジアでは1990年代から問題とされていたらしいが、日本でも本格的な拡大が懸念されるようになってきたということだろう。
多剤耐性菌の中には、どんな薬も効かない「スーパー耐性菌」というのもあるそうだ。こうしたたちの悪い多剤耐性菌は、早めに発見して封じ込めることがカギになる。
ともあれ、院内感染は、病人という弱いものの間であっという間に広がり、多くの人の命を奪っていく。きちんとした対応が求められるのはいうまでもない。
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