旧建設省以来、治水担当官庁は水害の恐ろしさを繰り返し強調し、治水予算を大幅に増やす必要性をアピールしてきた。さまざまなシミュレーションのうちでも、利根川や荒川が破堤し、首都圏が大洪水に飲み込まれるというのは、人々の視覚に直接訴えるものがあって、迫力満点だ。なかでも地下鉄網が水没する事態などは、想像するだけで恐ろしい。
ところがこうしたシミュレーションが、近年いっそうの現実味を帯びてきた。地球温暖化の影響で、夏ごとに大雨が降るようになってきたからだ。
大雨は、大都市において特有の被害を引き起こす。地下鉄を始めとして地下施設が発達したおかげで、いったん洪水に見舞われると、それらが水没し、これまでとは全く異なった形の被害をもたらすからだ。
もしも首都圏に、3日間で300ミリを超える雨が降るようだと、首都圏は水没する可能性が高い、中央防災会議は今年の春、こんな予測を発表した。
国土交通省は、これまで首都圏の治水対策を、時間雨量50ミリを目標に進めてきた。そしてそれを実現するために、下水道の整備と都市河川の改修を二本柱にしてきた。だがこうした想定を上回るような大雨が、今後は降るようになるかもしれない、そんな予想が先の予測につながったのだろう。
この予測を裏打ちするような事態が、今年は現実に生まれた。七月初旬に東京北部を襲った水害だ。この時は時間雨量50ミリを超える大雨が降ったために、石神井川の水位が急速に上昇した。それ以前に、下水道の排水能力に破綻をきたし、内水氾濫という現象が生じていた。下水が雨を吸収できずに、溢れかえる現象だ。これと石神井川の氾濫が重なったために、被害は今までにないものになったわけだ。
この氾濫の様子や、国土交通省のシミュレーションをNHKの番組が紹介していたが(上の写真)、それを見ると、今日の首都圏の構造がいかに危うい土台の上に作られているか、そのことがよくわかる。
関連記事:
・ ゲリラ豪雨日本列島を襲う
・ 気象異変(積乱雲のバックビルディング現象):荒れる日本の夏
・ 深層崩壊:新型土砂災害の恐怖
・ 世界の気象に異変:原因は偏西風の大蛇行
コメントする