ルーマニアでは、いわゆるジプシー Gypsy の人びとをロマ Romaと呼んでいる。ロマの人びと自体誇りを持って自分たちの呼称として用いているこの名称を、政府も尊重してきた経緯がある。ところが最近、この名称がルーマニアの国名と紛らわしいということを理由に、変更すべきだという議論が、政府の中から持ち上がって、大きな議論を巻き起こした。
政府側の言い分は、Roma と Romaniaの間で区別がつかず、ルーマニアがあたかもロマびとたちの国家であるかのように誤解されやすいとするものだ。そこで他のヨーロッパ諸国で用いられている一般的な呼称を参考にして、ティガーン Tigan とするのが妥当だと説明する。
だが、ロマの人びとは、少数民族がその名称を自分で決めることは国際法で認められた権利だとして、政府による一方的な名前の押し付けに反発している。
政府が持ち出したティガーンという名称は、もともと不可触民を意味するギリシャ語から出た言葉だ。ドイツ語(ツィゴイナー)やフランス語(ツィガーヌ)には確かにその言葉が取り入れられているが、それは差別の歴史を反映した用法がまだ残っているということだ。
これに対して、ロマという言葉は、ロマびとたちの固有の言語で、「ひと」を意味するという。
ルーマニアには、14世紀から19世紀半ばまで、ロマびとたちを奴隷としてあつかってきた不幸な歴史がある。今回の名称変更をめぐる騒ぎが、この不幸な歴史の記憶と深く結びついていることは否めないことのようだ。
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