杜甫の七言排律「歳晏行」(壺齋散人注)
歳云暮矣多北風 歳云(ここ)に暮れぬ矣北風多し
瀟湘洞庭白雪中 瀟湘洞庭白雪の中
漁父天寒網罟凍 漁父天寒くして網罟凍り
莫徭射燕鳴桑弓 莫徭燕を射て桑弓を鳴らす
去年米貴闕軍食 去年米貴くして軍食を闕く
今年米賤太傷農 今年米賤しくして太だ農を傷ましむ
高馬達官厭肉酒 高馬の達官肉酒に厭く
此輩杼軸茅茨空 此の輩杼軸茅茨空し
ここに歳が暮れて北風が吹き渡る、瀟湘も洞庭も雪に埋もれている、漁師は寒さのため網が凍り、莫徭の猟師は桑弓を鳴らしてツバメを射る
去年は米価が高騰して軍食も事欠く有様だったが、今年は逆に暴落して農民を苦しめている、馬にまたがった貴族たちは贅沢三昧が出来るが、人民はいくら働いても無一文だ
楚人重魚不重鳥 楚人魚を重んじ鳥を重んぜず
汝休枉殺南飛鴻 汝南飛の鴻を枉殺することを休めよ
況聞處處鬻男女 況んや處處男女を鬻(ひさ)ぎ
割慈忍愛還租庸 慈を割き愛を忍びて租庸を還すと聞くをや
往日用錢捉私鑄 往日錢を用ふるに私鑄を捉ふ
今許鉛錫和青銅 今は鉛錫を青銅に和するを許す
刻泥為之最易得 泥を刻して之を為せば最も得易し
好惡不合長相蒙 好惡は合(まさ)に長く相蒙るべからず
萬國城頭吹畫角 萬國城頭畫角を吹く
此曲哀怨何時終 此の曲の哀怨なること何れの時にか終らん
楚人は魚を大事にして鳥を軽んずるという、だからといってむやみにコウノトリを殺すことはやめよ、いわんや男女の子どもたちを売って、その金で税金を納めようなどと思うな、
昔は贋金を作れば厳しく罰せられたものだが、いまや青銅の銭に鉛を混ぜても許される、ドロで型をとれば贋金などいくらでも作れる、だがそんな金が何時までも流通することは避けねばならぬ
国中の砦では畫角を吹く音が聞こえる、その音色の哀切さはいつになったら止むのだろうか
大暦三年(768)暮の詩。はるばる流れてきた土地も戦乱の余波に現れ、民衆が苦しい生活を迫られていることを嘆く。その貧しい民衆から税を取り立てようとする役人たちを憤るところは、石濠吏を弾劾する杜甫と同じだ。
関連サイト: 杜甫:漢詩の注釈と解説
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