イスラエルはユダヤ人が建国した国家だからユダヤ人だけが住んでいる、こう思っていた筆者は、イスラエルの人口のうち20パーセントはアラブ人だと知らされてびっくりしたことがある。
彼らは、国籍上はイスラエル人だが、ユダヤ系のイスラエル人とはいろいろな意味で、異なっている。そんなアラブ系の人たちが、イスラエルという国で生きるとはどういうことか。そうした問題意識をめぐって、いまや、アラブ系イスラエル人のチャンピオンのような存在になった作家のサイド・カシュア Sayed Kashua さんを取り上げ、Economist の記事が面白い考察をしている。A Very Israeli Arab By Dan Ephron
カシュアさんは、イスラエル国内のアラブ人集落があるティラという町で育った。父親は反ユダヤ的な考えの持ち主で、それがもとで投獄されたこともある。しかし、カシュアさん自身は、ユダヤ人を敵視するような考えは持っていないという。
彼の家族は15歳の時にエルサレムに移住した。その後彼自身は、ユダヤ人子弟のための寄宿学校で教育を受け、ヘブライ語も堪能だ。そのヘブライ語を駆使して、27歳のときに最初の小説「踊るアラブ人」を出版した。
この作品は、イスラエルに住むユダヤ人に、同国人としてのアラブ人を知ってもらいたいと思って書いたものだ。イスラエルのユダヤ人たちは、隣人としてのアラブ人に警戒心を抱くことはあっても、理解しようとすることはなかったからだ。しかし、この小説のおかげで、アラブ人を見る見方が変ったというユダヤ人も現れた。
カシュアさんはだから、イスラエルという国に同居する二つの民族、ユダヤ人とアラブ人の文化的な架け橋としての役割を果たしつつあるといえる。
そのカシュアさんの、ユダヤ人についての見方は、ある意味で非常に辛らつだ。ユダヤ人のアラブ人への偏見やステレオタイプな見方を、小説の中で徹底的にからかっている。だがそのことでユダヤ人から大きな反発を食らわないのは、やはり筆の力の賜物なのだろう。
カシュアさんは一方で、アラブ人には人気がない。彼はイスラエル人としての成功を目指す余りに、アラブ人としての誇りを捨てたと、厳しい批判を浴びてもいる。
彼の小説がさまざまな国の言葉に翻訳されているなかで、アラビア語にはいま
だに翻訳されていないことが、彼の評価をめぐる難しい状況を物語っている。(写真はニューヨーク・タイムズから)
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