チュニジアのジャスミン革命の振動がエジプトを揺さぶっている。毎日のように群集がカイロの広場を埋め尽くし、ムバラクの退場と政治の民主化を求めて叫んでいる。その波は地方都市にも広がり、国民全体が変革を求めて動き出したかのようだ。エジプトにもチュニジアと同じジャスミンの匂いが立ち込めるだろうか。
だがいまのところ、体制がひっくり返るような、さしせまった徴候は見られない。群衆の動きが組織されておらず、官憲によって簡単に蹴散らされている。この様子だと、当面の騒乱は鎮圧される可能性が高い。
エジプトの騒乱は、チュニジアとどこが違うのか。チュニジアの場合には、インターネットによる革命といわれるように、ネットを通じて結びついた人びとが、明確な意思を持って組織的に叛乱を繰り返した。彼らの大部分は、所得も教育水準も比較的高い。政治的な目標も、西欧流の民主主義の実現という方向を向いている。
これに対してエジプトの騒乱は、隣国の革命に刺激された民衆が、長年の不満を爆発させたというに近い。その動きは自然発生的で、組織立ってはおらず、明確な政治目標も共有していないといわれる。
街頭に繰り出している人々は、的確な情報を持たず、闇雲に妄動している状態に近い。かれらの大部分は所得が低い貧困層で、インターネットなどとは無縁だ。容易に官憲による弾圧の餌食になりやすい。
それでも民衆のエネルギーは強力だ。いったんは力によってねじ伏せられても、再び火を吹くだけの潜勢力に満ちている。ムバラクはいつまでも安泰ではいられないだろう。ましてや、自分の息子に権力を世襲させようとする思惑は成功しないだろう、だれもがこう予感している。
それほど、ムバラクの専制政治に対する民衆の怒りが激しいということだろう。何しろ30年以上もエジプトに君臨し、自分自身は権力の乱用によって肥ってきたのに、民衆の生活は一向によくならない、むしろ他のアラブ諸国に比べて貧困層の割合が高く、アラブの劣等性といわれても仕方がない、それも皆ムバラクの専制政治がもたらしたものだ、こんな恩念が民衆の間に渦巻いている。
ともあれ、チュニジアに立ち上ったジャスミンの香りは、エジプトを始め北アフリカのマグレブ諸国全体に広がっていくだろう、またそれにとどまらず、中近東のアラブ諸国にも広がる可能性が強い。(写真はカイロの路上:EPA提供)
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