フランスのテレビ局カナル・プリュス(Canal +)が放映した番組に対して、日本の在フランス大使館が抗議をしていたことが分かった。抗議の対象となったのは、このテレビ局の看板番組で、人形を用いてパンチの利いた風刺を繰り広げている Les Guignols de l'Info というものだ。
NHKなどによれば、カナル・プリュスは3月14日―17日に、東日本大震災や東電福島原発事故を取り上げたが、その中のいくつかのシーンで、被災者の感情を著しく傷つける内容が含まれていたとして、日本大使館から、文書及び口頭で抗議したということだ。
これに対してカナル・プリュスは、「表現の自由がある」と回答し、謝罪はしなかったということだ。
報道されたのはこれだけで、番組の中でどのようなことがあったのか、具体的な内容は殆ど知らされない。だからこの記事に接した読者も、それを冷静かつ客観的に分析することはできない。ただフランスのやり方はけしからんと、現地の大使館では憤っている、これくらいのことしか伝わってこない。
そこでYouTubeを覗いて、わかる範囲で当該の場面をチェックしてみた。カナル・プリュス自身は、日本への遠慮からか、関係する映像をネットから削除しているが、第三者がそれをYouTubeで保存していて、一部なら今からでも追いかけることができるのだ。
日本大使館は、不適切な場面として三つあげている。その一つは、ゲームのキャラクターを使って、原発事故対応にあたる作業員たちを揶揄しているというものだ。上の映像がそれにあたるものと思うが、これを見たり聞いたりした限りでは、マリオとルイジ扮する作業員は、放射能の中で危険な作業をしているのを訴えているだけで、別に彼らを揶揄するような意図は感じられない。
二つ目は、日の丸に放射能のマークを重ね合わせるシーンがあるというもの。これもネット上に見つけることができたが、ただそうした映像が映っているだけで、別段日本国旗を侮辱しているような意図は感じられない。
三つ目は、原爆投下直後の広島の写真と、今回の被災地の写真を並べて、「60年たっても変わらない」とコメントしたとするものだ。これの生の映像は、筆者には見つけられなかったので、真相がどうなのか、よくわからない。
NHKは大使館側の言い分そのままに、これが広島の被爆者や今回の被災者の感情を踏みにじっているとコメントしているが、どういう理由でそうなるのか、何も言ってはいない。
ここまで調べてみて、筆者は、在フランス日本大使館の行動にどれほどの正当性があるのか、ちょっと不安になった。彼らの愛国心は十分に尊重したいが、その発露の仕方が適切でないと、外交という重要な場面で相手国と無用の緊張を生み出すことともなる。
フランス側における今回のこうした取り上げ方の背景には、事故直後の情報飢餓の状態の中で、原子力災害への不安が先行したという事情もあるだろう。実際中国や韓国などでは、民衆の間でパニックに近い動きも生じているし、アメリカにおいても、過度な感情的反応が生じたりもしている。それも日本側がもっと適切に情報開示していれば、起こらなくともよかった事態だといわれている。
今回のフランスでのケースも、事故の直後というべき時点で、まともな情報が殆ど伝わらない中で発生した。一種の行き過ぎといえなくもないが、しかし日本側に、それを一方的に非難する資格があるのかどうか、大使館のやっていることだけに、もう少し慎重であってもよかったのではないか。
コメントする