イギリスの保守・自民両党による連立政権が、昨年5月に成立してわずか1年で、崩壊の危機に見舞われている。自民党が連立結成の条件としてきた選挙制度改正に、保守党側が熱意を示さないばかりか、それに対立するような姿勢を示したため、自民党側が怒り心頭に達したからだ。
もっとも保守党は頭から選挙制度改正を否定してきたわけではない。自民党との度重なる協議を踏まえ、「順位指定投票(Alternative Vote、AV)」制というものをまとめて、これの実施の是非について国民投票にかけるところまでは譲歩した。
この制度は、各小選挙区で過半数を獲得した候補がいなかった場合、最下位となった候補者の票をほかの候補者に割り振るという制度だ。割り振りは有権者があらかじめ付していた順位に基づいてなされる(順位指定投票)。この結果、過半数を獲得する候補者がでてくる仕掛けになっているため、死票を生かす制度としての側面がある。
自民党にとっては、日頃主張していた比例代表制には及ばないが、次善の策としてこれを受け入れた。そのうえで、折角合意にこぎつけたのであるから、成立に向けて努力するよう、保守党側に申し入れた。
ところが、である。保守党の方は、国民投票に及んで、これを全面的に否定するようなキャンペーンを始めた。イギリスの政治的伝統においては完全小選挙区制こそ王道であり、順位指定投票制度は、これに反するものだとあらためて強調したのである。
保守党の理屈は、順位指定投票制度は少数政党に有利に働くことによって、政権運営を不安定化させ、その結果国民にとっては好ましくない結果をもたらすというものだが、そもそも、多数派を形成できる政党があらわれず、政権運営が極めて不安定になったという歴史的な事情を踏まえて、選挙制度改正の必然性が認識されたのではないか、というのが自民党側の言い分である。保守党の言い分は、こうした歴史的な経緯を無視した、ナンセンスな主張だというわけである。
この国民投票は5月5日に実施されたが、その前後にはローヤル・ウェディングがあったり、ビンラディンが殺害されたりと、重要ニュースが相次いだため、殆ど国民の関心を引くこともなく、否決される見通しとなった。
こうした事態に自民党のクレッグ党首自ら、キャメロン党首以下の保守党幹部を大いに非難し、場合によっては連立解消も辞さないと息巻いているわけなのである。(写真左はキャメロン、右はクレッグ:AFP提供)
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