アメリカ政府の債務上限問題をめぐる共和党との妥協が成立せず、このままでは連邦政府の債務不履行や米国債の格付け下落の恐れが現実化しかねない事態を前に、オバマ大統領が珍しく感情的になったようだ。国民向けの演説で、共和党を口を極めて罵り、交渉のいきづまりとその結果起きる混乱の責任はあげて共和党側にあると言い切った。さすがのオバマ大統領も堪忍袋の緒が切れたということか。
アメリカの大統領が野党を公然と非難するのは極めて異例のことだ。大統領は行政権の代表として、議会全体とチェックアンドバランスの関係にあるというアメリカの政治システムの特性を踏まえ、議会に対しては与野党含め一定の礼儀をもって臨むというのが伝統だったからだ。
それでも公然と非難せざるを得なかったのには、それなりの背景があるというのが事情通の味方だ。
これまでのアメリカの政治史上、与野党の対立が先鋭化して、重要な政治的決定が困難になり、政治システムが麻痺する、というような事態はほとんど起こらなかった。どんなにするどく対立する案件でも、最後には与野党の妥協が成立してきたのである。それがなかなかできなくなってきたわけは、民主、共和両党の政治的な対立が妥協を許さないほど鋭いものになってきたためだ。
アメリカの政党制にはいくつかの対立軸があった。リベラリズムと保守主義、大きな政府と小さな政府、経済活動における規制と自由といったものが主なものだが、どの対立軸をみても中間の入る余地がないほど先鋭化してきたというのが、最近のアメリカ政治の動向だ。
かつては民主、共和両党ともに、党内に多数の中間派を抱えていた。たとえば民主党においては南部の比較的保守的な層を抱え、共和党においては北東部の比較的リベラルな層を抱えているといった具合に。こうした中間層が、左右対立が激化したときに緩衝材となって、妥協を成立させてきたのである。
ところが最近は、南部の比較的保守的な層は共和党にぶれ、北部の比較的リベラルな層は民主党にぶれるといった具合に、共和党はいっそう右に、民主党はいっそう左に純化され、どちらの党にも中間的な層がいなくなってしまった。
こうした情況が、両党が真正面から対立し、なかなか妥協点を見出せなくなってきたことの背景だと考えられる。(写真はベーナー下院議長とオバマ大統領:ロイター)
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