ブリューゲルの時代には、死は身近な出来事だった。戦争や疫病によって、人々はごく簡単に死んでいったものだ。そこは死が勝ち誇った世界だったわけである。そんな死の威力を、画家たちはつかれたように描いた。死の舞踏とか、死の勝利といったテーマのもとで。
ブリューゲルはこの絵の中で、死のイメージを骸骨のような形で表している。画面の右手ではおびただしい数の骸骨が巨大な軍団を作って前進している。画面中央から左手にかけては、骸骨が生きた人間に襲い掛かり、首をはねたり刃物で突いたりしている。
はねられて骸骨になった首は、死神の戦利品としてリアカーの荷台に山のように積まれる。死んで間もないものの遺体は、犬によって食われようとしている。どこを見てもすさまじいイメージばかりだ。
死の威力の前では、何をしても意味がない。画面右手下には、剣を以て骸骨に立ち向かうものや恐れてテーブルの下に隠れようとする男が描かれているが、そんなことは無意味な行為なのだ。彼らは速やかに死によって捉えられるであろう。
また死神の接近をよそに、愛を語らっている男女がいるが、彼らもやがてこの世から追われる運命なのだ。
(1562年、117×162cm、板に油彩、マドリード・プラド美術館)
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