ウクライナの前首相でヤヌコーヴィチ現大統領の政敵ユリア・チモシェンコ(Юлия Тимошенко)への政治的な迫害については先稿で紹介したところだが、このたびキエフの裁判所において禁固7年の刑が言い渡された。罪状は首相時代の2009年にロシアのプーチン首相とのあいだで取り交わしたガスの取引に関して、ウクライナに損害を与えたというものだ。
この判決がヤヌコーヴィチの政治的な意図を反映した不当なものであることは誰の目にも明らかだ。チモシェンコの支持者は法廷の内外でこの茶番劇を激しく糾弾し、チモシェンコ自身はこれをスターリンによる粛清にたとえた。またEUもこの判決に遺憾の意を評し、ウクライナがEUに申し出ている自由貿易協定に影響するのは避けられないとの声明を出した。
ウクライナでは権力の交代があるたびに、政敵に対する大規模な報復が行われてきた。これはウクライナに限らず、ビザンティン帝国の伝統を受け継いだ諸国に共通する現象だ、とジュリア・ヨッフェはニューヨーカー電子版に寄稿した文章の中で書いている。(Taking Out Tymoshenko Posted by Julia Ioffe)
ビザンティン帝国では、皇帝が打倒されると、その後継者は彼の政治的な影響力を排除するために、民衆の面前でリンチにかけてきたという。前皇帝は民衆の見ている前で目玉をくりぬかれ、鼻をそがれ、耳をちぎりとられ、咽喉を突き破られる。こうして人間としての表情を失うことで、民衆の嫌悪の的となり、二度と権力の座を目指すことのないように、骨抜きにされるのだ。
チモシェンコの場合には、ヤヌコヴィッチもさすがにそこまではできなかった。なにしろ彼女は国内で圧倒的な人気があるばかりか、国際的な人気者でもある。やりかたを間違えると、自分にとっては思わぬダメージとなるかもしれない。ここは監獄に閉じ込めておくことで、彼女の政治的影響力を排除しようとの計算のようだ。
だが、チモシェンコはそんなことではへこたれない。彼女の側近によれば、彼女は逆境の中でこそファイトが高まるタイプの精神の持ち主だ。このまま黙って豚箱に入っているとは考えられない。ヤヌコーヴィチの不当性と彼女自身の正義を広く民衆に訴え、必ず政権に復帰してみせる、そう誓っているはずだという。
面白いことに、今回の判決について意見を求められたプーチンは、彼女が何故有罪になったか、よく理解できないと答えたそうだ。彼女が追及されたガスの取引にあたっては、皮肉なことに、プーチン自身がロシア側の代表を務めていた。プーチンは、自分もユリアもそれぞれ祖国を代表して、正々堂々と交渉に当たった、と述べたそうだ。
だがプーチンはヤヌコーヴィチのやり方を間違っているとはいわなかった。自分もまた、ホドルコフスキーやベレゾフスキーに対して同じようなことをしているから、ヤヌコーヴィチを非難できないと思ったのだろう。
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