「ウォール・ストリートを占拠せよ」運動のデモ隊がニューヨーク市警察によって弾圧されたことは先稿で触れたとおりだが、その際の警察のやり方が用意周到で、最初から彼らを弾圧する目的で、準備万端を整えていたのではと非難されている。この弾圧の中核になったのが白シャツ(NYC White Shirt Police Commanders)と呼ばれる幹部職員たちだ。
デモの様子と彼らが次々と抑留されるところを記録したビデオがネットに公開され、このときの弾圧の詳細が少しずつ明らかになってきた。ここでは筆者が見ることのできた映像から、当日の様子を再現してみよう。
ザコッティ公園を出発したと思われるデモ隊がブルックリン橋に向かっている。その前を警察官の集団が、まるでデモ隊を先導するかのように進んでいる。その数は多いとはいえない。
デモ隊が橋の中途に差し掛かったころ、警察官が前に立ちはだかって、通せん坊をする。その中心にいるのは白シャツを着た連中だ。彼らをすり抜けて無理に通ろうとするものは拘留される。そのうち進んできたデモ隊は警察官にせき止められるような形で、橋の上に滞留する。オレンジネットと呼ばれるものが持ち出されて、デモ隊を一歩も前には行かせないぞという意思表示がなされる。
警察官らはしばらくのあいだデモ隊と向き合っていたが、そのうちひとりずつごぼう抜きをして、彼らを後ろ手にして手錠をかけ、背後に用意してあった車両に積み込む。抵抗するか否かにかかわらず、警察官はデモ参加者を次々と拘留して行く。面白いことに、警察官の数はそんなに多くはなく、またデモ隊もほとんど抵抗することなく、少人数の連中によって次々と人々が絡めとられていく。まるでカツオの一本釣りを見ているようだ。
この映像を注釈したコメントには、これは警察による罠だと批判するものがいる。警察ははじめから綿密なプロットを立て、それにしたがってデモ隊をブルックリン橋に誘導し、橋の上で彼らを一網打尽にして、あらかじめ用意してあった車両に乗せて、豚箱に運んだのだ、と断定する。
その批判はともかく、筆者はむしろニューヨーク市警察の手際よさに変な感心をした。彼らはデモ隊の規模に比べれば不釣合いに少人数にかかわらず、実に手際よく人々を逮捕するのだ。日本の警視庁なら、これだけの規模のデモには、数百人規模の機動隊を導入するところだろう。
もうひとつ面白いことに、この弾圧の現場には、ニューヨーク市警察のトップたるエスポシート(Joseph J. Esposito)警察長が陣頭指揮をとっていたらしいことだ。長官自らデモ隊に割り込んで、その太い腕で二人の頭をかかえこんでいたという証言もある。東京のデモの現場で警視総監が陣頭指揮することなど考えられない。
このエスポシートという人は、巡査からスタートしたたたき上げの警官だそうだ。いろいろな意味でアメリカの警官かたぎを体現した人物だという。そんなところにも筆者は尽きせぬ興味を覚えたところだ。(写真はごぼう抜きをする白シャツたち)
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