ブリューゲルは聖書に語られている出来事を、同時代のネーデルランドを舞台にして描いた。この絵は、ルカ福音書の一節に基づいたものだ。
ローマ皇帝アウグストゥスが全世界の人口を調査するように命令を発したため、すべてのひとは自分の町へ帰って登録しなければならなかった。それ故ダビデの末裔であるヨセフはダビデの町ベツレヘムへと、身ごもった妻マリアを連れて戻っていった。
絵の手前中ほどにロバに乗っている姿で描かれているのがマリアだ。マリアの前にはヨセフがうつむき加減で歩いている。彼が目指しているのは、租税徴収の役所だ。当時のネーデルランドはスペインの支配下にあって、人々は重い税負担にあえいでいた。
マリアの周辺にいる人々はマリアの存在に注意を払っていない。凍った川の上では子供たちが遊び、後景の建物の前では火が焚かれ、ひとびとに酒が振る舞われている。まさにネーデルランドの日常的な光景だ。
(1566年、板に油彩、115.5×164.5cm、ブリュッセル王立美術館)
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