昨年暮れの31日に、鴨緑江を越えて中国に渡ろうとした北朝鮮人三人が、北朝鮮の国境警備隊によって射殺されるという事件が起こった。過去にも同様の事件が起こらなかったわけではないが、今回のは余りにも殺伐としたやり方だったと、川越しに現場を見ていた中国人も肩をすくめたということだ。
この事件は、金正日の死亡に伴い、社会混乱を警戒する北朝鮮当局が、脱北者にも厳しい態度をとっていることの現れだと推測されているが、そこには金正恩の意向も働いていると指摘されている。
これに先立つ12月19日に、脱北者の家族4人が、鴨緑江の同じ地点で逮捕される事件が起きていたが、その概要の報告を受けた金正恩は激怒して、金正日総書記哀悼期間に脱北した住民を「逆賊」とし「三族を滅ぼせ」と命令したというのだ。今回の射殺事件はその命令を受けて実行された可能性が強い。
「三族を滅ぼせ」というのは、親、兄弟、子どもの三代にわたって一族皆殺しにしてしまえという意味である。
直接脱北を企てたものにしても、裁判もなしに殺されるのは無法というほかはない、それに加えて一族まで問答無用に殺してしまえというのであるから、無法を超えて無道と云うほかはない。天の道にそむいているということだ。
伝えられるところがもし本当だとしたら、我々は金正恩という人間に対して相応の警戒をしなければならない。無道な人間には人間としての合理性を期待できないからだ。
それにしても北朝鮮の人々が脱北を図るのは飢えに迫られてのことだ。いまでは兵士でさえ痩せ細るほど、北朝鮮は深刻な食糧難にあえいでいる。
金正恩がなすべきことは、国民が脱出を望まないでも済むように、十分な食料を確保してやることだ。自分一人は飽食で顔の輪郭もなくなるほど肥満しておきながら、国民の飢えを無視して、切なさから脱出を図る人々を虐殺する。
そんな人間は暴君であることを超えて、凶悪な抑圧者というべきだ。
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