「最後の審判」の右翼画はまさに地獄と題されているが、ここでも地獄そのものというより、地獄の門の周辺が描かれているようにも見える。画面下部のほうに描かれているアーチ状の門が地獄の入り口であり、その前に立っているのは大勢の手下を従えた魔王ルシフェルなのではないか。
審判を受けて地獄にやってきた罪びとたちは、ルシフェルによる検問を受けて、それぞれに相応しい責め苦に服す。彼らの罪状と地獄における運命は、ルシフェルの手下の悪魔によって記録される、というわけだ。
ルシフェルと彼の一味は、地底のじめじめとしたイメージを引きずっている。まずルシフェル自身はミミズのような気味の悪い手足を生やしている。その目からは炎がほとばしっている。
門の右手では、目隠しをされ、腹に剣を突き通された男を、ヒキガエルの化け物が引き立てている。化け物はメガネをかけ、帳面を持っている。その帳面に男の罪状とルシフェルの命令を書き込むのだ。
門の左手では、楽器を抱えた化け物の前に裸の女が引き立てられ、譜面を示されて歌えと強要されている。女の背後にいる猿面の化け物は淫乱のシンボルだ。
一番手前には、これも地下世界の象徴である魚が横たわっている。魚に腰かけているのは魔女だろう。
門の上部には夥しい人々がひしめいているが、彼等はすでにルシフェルの裁きを受けて、永遠の責め苦に引き立てられているのだ。誰もそこからは逃げられない。飛びおりようとする者も腕をとって引き立てられているが、これは死ぬこともゆるされぬという意味だろうか。
翻って画面最上部には噴火する火山が林立し、その麓の谷には洪水が押し寄せ、洪水のそばからも火の手が上がっている。画面右手に描かれている、青白い顔をした巨大な男も、口から火を噴きだしている。
中世人にとって地獄とは劫火と洪水とで満ち満ちていたようだ。
関連サイト:壺齋散人の美術批評
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