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ヴィーナス誕生:ランボーの肛門愛


アルチュール・ランボーは、18歳にして10歳年上の詩人ポール・ヴェルレーヌと男色の関係を結んだ。二人の間柄がどのようなものであったか、詳細はわからぬが、両人が残した言葉から類推すると、ランボーのほうが男役を勤めていたようだ。

そのランボーには、子どもの頃から肛門への偏愛というべきものがあったようだ。15歳のときに書いた「ヴィーナス誕生」という詩は、そんなランボーの肛門愛が伺われるものとして、研究者たちの注目を集めている。

ヴィーナス誕生という詩的でロマンチックな題材を扱いながら、ランボーはもっぱらヴィーナスの肛門に関心を集中させている。もこもとと動く女の臀部を描写しながら、ルーペ越しに拡大された肛門の眺めを歌ったこの詩は、ヨーロッパのエロティシズムの伝統の中でも、桁外れにユニークなものである。

とても15歳の少年が書いたものとは思われない。

ところでフロイトは、肛門への執着を、子どもの成長過程の中で普通に見られる現象として取り上げた。肛門から出てくる排泄物は、子どもが自由にできる唯一の財産であるから、それを母親への贈り物として使ったり、また、反抗の手段として使ったりして、母親との間で自立性を確立していく過程で重要な役割を果たすのだとみた。

肛門はまた、排泄を通じて性的興奮に近いものを得られる器官でもある。このことから、肛門への執着が倒錯的な態度に結びつくこともありうるとフロイトは考えた。だが、その結果として現れる現象を、フロイトは、男色への偏愛よりは、金銭への執着など別の部分にみている。

ランボーの肛門愛が、彼のその後にどのような影を落したのか、踏み入った研究が求められるところだろう。


(ヴィーナス誕生:拙訳)

  青銅の棺から起き上がるように
  こってりとした茶髪の女が頭を現わす
  のっそりと風呂桶から起き上がる
  あちこちに禿の斑点が見えてるぞ

  頭に続いて太った首と肩甲骨
  短い背中は折れ曲がって膨らんでいる
  お次に見えるはケツの番
  皮下脂肪が葉っぱを敷き詰めたようだ

  尾骨のあたりは赤みを帯びて
  なにやら変な匂いがする
  どれどれルーペでよく見てみようか

  ケツには文字が書いてある 「輝くヴィーナス」
  ケツの肉が もこもこと動き出した
  ケツメドには鮮やかないぼ痔が見えてるぞ


(フランス語原文)
Vénus Anadyomène : A Rimbaud

  Comme d'un cercueil vert en fer-blanc, une tête
  De femme à cheveux bruns fortement pommadés
  D'une vieille baignoire émerge, lente et bête,
  Avec des déficits assez mal ravaudés ;

  Puis le col gras et gris, les larges omoplates
  Qui saillent ; le dos court qui rentre et qui ressort ;
  Puis les rondeurs des reins semblent prendre l'essor ;
  La graisse sous la peau paraît en feuilles plates :

  L'échine est un peu rouge, et le tout sent un goût
  Horrible étrangement ; on remarque surtout
  Des singularités qu'il faut voir à la loupe.....

  Les reins portent deux mots gravés : Clara Venus ;
  - Et tout ce corps remue et tend sa large croupe
  Belle hideusement d'un ulcère à l'anus.


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    コメント (1)

    匿名:

    おもしろいですね

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