1870年10月7日、ランボーは二度目の家出をする。恐らく金は殆ど持っていなかったのだろう。徒歩でベルギーに向かい、途中知り合いの家に転がり込んで一夜の宿を借りたりしながら、シャールロアまで歩き続けた。
ランボーが何故シャールロアを目指したかはよくわかっていない。おそらくイザンバールのつてを求めたのだろう。シャールロアにいる友人に、新聞記者の口を紹介してもらおうとしたのだとする説もある。
「キャバレー・ヴェールにて」は、ランボーがシャールロアにたどりついたときに作った詩である。八日もの間歩き続け、やっとたどり着いた目的地で、とりあえず休息をとろうとしたのだと思われる。ランボーの詩にはめずらしく、少年らしい初々しさが伺われる作品だ。
(キャバレー・ヴェールにて:拙訳)
八日の間 俺はぼろ靴をひきずりながら歩き続け
シャールロアの街にやって来た
キャバレー・ヴェールで 俺は早速注文した
パンとバターと コールドハム
すっかり幸福な気分になって テーブルの下に脚を伸ばすと
壁に貼られた無造作な字が目に入った
緑だって!なかなか素敵な名前じゃないか!
するとでっかいおっぱいの すばしこそうな娘が現れた
やあ! 挨拶代わりにキスをしたいな!
娘は笑って相手にしない 片手に持った大皿の上には
パンとバターと ハムがあった
にんにくの匂いがするささみ色のハムを置くと
娘はジョッキをビールで満たした
ビールの泡に夕日があたって金色に輝いた
この後ランボーはブリュッセルを経て北フランスのドゥーエーに向かった。そこでイザンバールの知人の家に逗留していたところを、ランボーの母親に頼まれたイザンバールによって、シャルルヴィルに連れ戻されている。
〔フランス語原文〕
Au Cabaret-Vert, cinq heures du soir : Arthur Rimbaud
Depuis huit jours, j'avais déchiré mes bottines
Aux cailloux des chemins. J'entrais à Charleroi.
- Au Cabaret-Vert : je demandai des tartines
Du beurre et du jambon qui fût à moitié froid.
Bienheureux, j'allongeai les jambes sous la table
Verte : je contemplai les sujets très naïfs
De la tapisserie. - Et ce fut adorable,
Quand la fille aux tétons énormes, aux yeux vifs,
- Celle-là, ce n'est pas un baiser qui l'épeure ! -
Rieuse, m'apporta des tartines de beurre,
Du jambon tiède, dans un plat colorié,
Du jambon rose et blanc parfumé d'une gousse
D'ail, - et m'emplit la chope immense, avec sa mousse
Que dorait un rayon de soleil arriéré.
関連リンク: 詩人の魂>アルチュール・ランボー