「夕べの祈祷」はランボーのスカトロジーが現れる最初の作品である。書いたのは、おそらく1870年の暮近くだと思われる。その頃ランボーは、シャルルヴィルに連れ戻されていたが、日常の生活に退屈しきり、周りの空気に我慢ならなかった。
この詩は、日常性に対する反発を、糞便趣味で吹き飛ばそうとするものである。雰囲気はいっそう大人びてきて、この頃のランボーが関心を持ちつつあったアナーキズムへの傾斜が読み取れる。
―夕べの祈祷(拙訳)
床屋の手に身を任せた天使のように座り込み
刻み模様のコップをきつく握り締め
葉巻を歯に銜えたまま俺はのけぞる
何ともいえず陰気な空気がただよう中
古びた鳩小屋に積もった暖かい糞だまりのように
無数の想念が俺の頭に澱のようにたまる
すると俺の心は悲しさに満ちて
柳の樹液のような黄土色の血を流すのだ
こいつら想念を注意深く飲み込むと
俺は俄かに突き上げる衝動にとらえられ
身をくるりと翻すや
草むらに立つ神のように心和み
薄暗い空に向けて高々と放尿したのだった
あたりにヘリオトロープの匂いをただよわせながら
ランボーは、1871年の2月に3度目の家出をし、パリの街を放浪している。その頃「共産主義政体の一試案」なるものを書いているから、ランボーの関心は政治的な方面へも向けられていったと思われる。
(フランス語原文)
Oraison du Soir : Arthur Rimbaud
Je vis assis, tel qu'un ange aux mains d'un barbier,
Empoignant une chope à fortes cannelures,
L'hypogastre et le col cambrés, une Gambier
Aux dents, sous l'air gonflé d'impalpables voilures.
Tels que les excréments chauds d'un vieux colombier,
Mille rêves en moi font de douces brûlures :
Puis par instants mon coeur triste est comme un aubier
Qu'ensanglante l'or jeune et sombre des coulures.
Puis, quand j'ai ravalé mes rêves avec soin,
Je me détourne, ayant bu trente ou quarante chopes,
Et me recueille pour lâcher l'âcre besoin :
Doux comme le Seigneur du cèdre et des hysopes,
Je pisse vers les cieux bruns très haut et très loin,
Avec l'assentiment des grands héliotropes.
関連リンク: 詩人の魂>アルチュール・ランボー